「えっ、これ全部涼一が釣ったの?」
テーブルに並べられた、見事な魚料理を前にして恵美が言った。
「ああ。村上が言っていたのは本当だったな。穴場だよ、あそこは」
「そーだろ? でもまあ、これだけ釣り上げてくるのも大したもんだぜ」
そうして皆がテーブルについた。
「涼一君の感謝の意を込めて……それじゃ、いっただっきま〜す!」
この別荘に来て、二日目の夕食を済ます。
「そうそう忘れてた。さっき花火買ってきたから、食べ終わったらみんなで一緒にやろうよ?」
「やったー! 花火ー!」
その言葉に皆賛成し、食後さっそく夜の海岸へと出た。
「いやあ、夏といえば花火だね〜」
「オマエ昨日、スイカって言ってたじゃねーか」
「そのとーり! 花火とスイカは、夏の三大要素!」
「三大要素? あとの一つはなんなんだよ?」
「ふふふ……。ナイショ」
「はあ? 何言ってんだ……」
瑞樹が大量に買いこんできた花火を広げ、皆はそれぞれ思い思いに火を点ける。
――ピュウウウーーーッ!
さっそく瑞樹が点けたロケット花火が、甲高い音を鳴らして飛んで行く。
「きゃあ! 綺麗ー」
向こうでは、地上型の打ち上げ花火だ。恵美たちは、立ち上る火柱を眺めていた。
「浅田せんぱーい! 一緒に花火しましょ〜」
すると、瑞樹の妹が一袋抱えて寄ってきた。
「線香花火は最後として〜……。何にしますか?」
そう聞いてくる。
「そうだな……」
俺は袋の中を見て、手ごろなものを探す。
「……これでもするか」
手に取ったのは、羽根のついた回転型の飛行花火だった。
「あ、いいですね〜。加奈も好きなんですよ」
「さて、火は……」
「はい。どーぞ」
「ああ、すまない」
――ジジジ……
手の中にある花火の導火線に火を点け、じっと持ちつづける。
「あの浅田先輩、早く地面に置かないと……!」
――ジジ……
もうすぐ本体に引火する瞬間、俺は空中に放り投げた。
――シュルルルルルッ……パアンッ!
空中で斜めに飛んで行き、見事破裂した。
「……す、すっごーい! おもしろいですね〜!」
その様子を見て、瑞樹の妹が歓喜の声を挙げた。
「まあ、危険だからな。あまりおすすめはできないぞ」
「はーい。えっと、火を点けてしばらく待って……えいっ!」
――シュルルルルルッ……
高度と方向が失敗したせいか、その花火は向こうにいた……。
――パアンッ!
「うわあ! なんで僕の方に飛び道具が!?」
瑞樹の近くまで行って破裂した。
「てへっ、しっぱーい」
実の兄に花火をぶつけそうになったのに、本人は気にした様子もない。
「行くぞー。次は成功させるんだから〜」
そう言って次を取り出そうとする。
「……待て、やはり普通に飛ばそう」
「え〜、そうですか〜?」
多少不満を洩らしたが、大人しく花火を普通に打ち上げた。
――シュルルルルルッ……パアンッ!
「ほーれ慎也、三十連発打上スペシャル食らえっ!」
「うおおおっ! それは手に持ってやる物じゃないだろ〜!」
こちらがまともに花火をしても、瑞樹は花火に追いかけられる運命にあるようだ。
「あっははは! 楽しいですね〜……」
その様子を見て、瑞樹の妹が笑う。
「まあ、な……」
ここの海に来て、二日目の夜が過ぎようとしている。
ここまで色々あったが、悪くないものだったと思う。
(悪くない……か。三ヶ月で、随分変わったみたいだな)
そんなことを、他人事のように思ってしまう。
「せんぱ〜い? これ、しましょうよ〜」
そう言って渡されたのは、手持ちの細長い花火だった。
――シュウウウウ……
二つの先から噴出す火花は、星屑のように流れ落ちて消えて行く。
「あはは……」
無邪気にくるくると回し、それを面白がっているようだ。
「……楽しいか?」
「はい! 浅田先輩となら、なんだって!」
彼女は、そう元気に応えた。それに対し、俺はなんと応えたらいいだろう?
「ありがとう……」
思わず出た言葉がこれだった。
「えっ!? あ、あの……」
――シュウウゥゥ……
花火が消える。途端、二人の間に闇が包んだ。
「先輩……あの、私……」
「やあ! キミタチ楽しんでるかい?
今日の目玉としてね、この巨大打ち上げ……ん?
どうしたんだい、加奈?」
――ポイッ……シュルルルルッ!
「うあっ熱!? せ、背中でなんかが踊ってる! 何するんだ加奈!」
「うるさーい!! デリカシーのないお兄ちゃんなんか消えちゃえー!」
瑞樹は終始身体に火を浴びつづけ、こうして花火は終わった。
―――別荘
「夏の三大要素、スイカ、花火とくれば、残りの一つは当然……」
――ボッ
「……怪談だよ〜」
そう言うと、ロウソクに照らされたお兄ちゃんの顔が写った。
「よっ、名司会者。色々ご苦労さん」
「お褒めいただいてアリガトー。さて……」
テーブルには一人一人一本づつロウソクがあって、それぞれに火が点けられている。
部屋の明かりといえばこれくらいだった。
「ルールは知っての通り、話しが終わればロウソクを消して行く。
全員の話しが終われば、この部屋は真っ暗になって、何かが起きるだろう……」
「何かって何よー? あたし、怖いの得意じゃないのよね」
「わ、私もです……」
「得意っていうほうがどうかしてるわよ。
この別荘に招待された以上、与えられたイベントはこなさないとね」
「よく言ってくれました高宮さん! さあ、誰から始めようか……」
そして、みんながみんなを見渡す。私のすぐ隣りには……。
「………」
さっきから何も言わない浅田先輩がいた。
(もしかして、意外とこういうの苦手だったりして?)
こうして隣りにいたのは、ちょっとした企みがあった。
「じゃあさっそくだけど、僕から始めようかな。心の準備はいいかい?」
真っ暗になった瞬間、悲鳴を挙げて浅田先輩に抱きつく。
(うん。こんなときなら、絶対にしょうがないよ……)
「これは、僕の知り合いが体験した本当の出来事なんだけど……」
お兄ちゃんが話し始めた。この話しは前に聞いた事があったので、別に怖いことはない。
「それで、一人で乗っていたはずのバイクの背に……!」
最後に大きな声を挙げてびっくりさせる。怖い話しでよく使うパターンだ。
「あはは、というワケさ。じゃあ一つ目……」
――フッ
お兄ちゃんの目の前のロウソクが消える。
「じゃあ、次は私が行こうかしら? 私の親戚の家でね……」
そうして、二人目が話し始める。
「……その井戸は、元々使われていないからコンクリートで埋められていたんだって。終わり」
――フッ
一人、また一人と話し出してロウソクが消えて行く。
その度にキャアとか言ったりするけど、まだその時じゃない。
「加奈、次はおまえ行けよ」
「えっ? う、うん……いいけど」
そうだ、最後にロウソクを消すのが私だったら、驚いて抱きつくはちょっと変だ。危ない危ない。
「えーと、これは中学の時に友達から聞いたんですけど……」
ちらりと浅田先輩を見たけど、今まで特に反応したりはしていない。
怖いのか平気なのか、よくわからなかった。
「……その子の足首には、無数の手の跡があったらしいんですよ」
私の話しが終わる。
これは結構とっておきのものだから、自分で話していてもちょっと怖かった。
――フッ
気付くと残り一本だった。その最後のロウソクは……。
「締めくくりは涼一君、キミだよ……。まさか、怖気ついたんじゃないよね?」
お兄ちゃんがからかい気味聞いた。
「いや……そういうわけじゃないが。ちょっと思い出したことがあってな」
「へぇ、一体なんだい?」
「今から話すさ。最後の話しとして」
「そう、じゃあ頼むよ。お願いだから怖がらせてくれよ?」
「ああ……」
私達が見つめる中、浅田先輩はロウソクを見つめて話し出した。
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