「もうすぐ、期末テストね」
週末の放課後、学校帰りに高宮がそんなことを聞いてきた。
「……そうだったな」
俺は、気の無い声でそう答えた。
「あたし今回、ちょっと自信ないのよね……」
そう言って、意味ありげな目線を出してくる。
「明日さ、もし良かったら浅田君の家で……」
そう言いかけた所だった。
「いいねそれ!涼一君の家かあ、一回行って見たかったんだよね〜」
どこからか瑞樹が登場した。
「ちょ……瑞樹君!どこから出てきたの!」
「やだなあ〜、ちょっと気配を消して近づいただけじゃないか」
「……一体、何をしているんだ」
気付くと、いつもの面々が揃っていた。
「ウチで勉強するの?」
恵美が、意外そうな顔をして言った。
「僕ね、今回に限ってあまり勉強してなかったんだ。
もし、よろしければ涼一君にテスト対策の手ほどきでもと思ってね。ねえ、どうかな?」
瑞樹は、両手を併せて俺に頼み込んでくる。
「なぜ俺に……別に、勉強が得意な訳じゃないぞ」
「またまた〜、ケンソンしちゃって。キミに教わらないで、ダレに教わるっていうんだ?」
「……あのな」
「はいはーい!加奈も行きたいでーす!」
「何言ってんだよ、一年生のオマエが二年生の僕達の勉強に入ってどうするんだ?」
「ずるーい、お兄ちゃん達ばっかり!加奈も勉強したいのに、したいのに、したいのに〜!」
「まったくしょうがないな……でも、これは涼一君が決めることだからね〜」
「えぇ〜……浅田先輩、どうなんですかぁ?」
「どう、と言われてもな・……家でやるとしたら、俺の部屋か?」
「そりゃあ、できればね」
こいつらは、俺の家で勉強がしたいと言っている。
たしかにテストが近いから、勉強をしなければならない気持ちは判る。
だが、俺自信テスト勉強などほとんどしたことがない。
教科書を見て、授業をそこそこに聞いていれば大概は理解できるからだ。まして人に教えるなど……
「……俺の部屋は、そんなに広くないぞ?」
「構わないって!狭かろうが汚かろうが騒音でうるさかろうが、全然オッケーだって」
「そこまで、ひどくはないがな……」
「それじゃ、いいんですかぁ!」
「まあ……勉強をするくらいならな」
「いやったあー!」
瑞樹と妹は、手を取り合って喜んでいる。
「……浅田君、最初あたしが頼んだんだけど」
高宮が、睨むような視線を向けた。
「別に構わないが……あまり人が増えるのもな」
「だったらさ、あたしの部屋ですればいいじゃない」
「恵美」
「そうすれば、人数増えても大丈夫じゃない。ねえ、由紀子」
そこで会話を振られると思っていなかったのか、北村が驚いて顔を向ける。
「えっ?」
「当然、あなたも来るんでしょ?」
「あ、あの……いいんですか?」
「別にいいんじゃない。勉強するなら、あたしも願ったりだし」
「はい、ありがとうございます」
「明日かー、掃除しとかなきゃ……」
そう呟きつつも、恵美はどことなく嬉しそうだった。
「……ということらしい、村上はどうするんだ?」
「俺か?勉強なんてウザったいのは、したくねえけどな……」
そういう村上の視線の先には、瑞樹達が浮かれている様子があった。
「あの兄妹を放っておくにはいかねえだろ?」
そう言って、両手をすくめた。
「ご苦労なことだな」
「なーに、俺もオマエの部屋がどういうのか興味あるからな」
「皆何をしに来るのだか……」
明日の勉強会を前にし、俺達はそれぞれ帰途に着いた。
「アンタが部屋に他人を入れるなんて、久しぶりじゃない?」
家に帰る途中、恵美がそんなことを聞いてきた。
「まあ……な」
さて、明日はどうなることやら。
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