第四十八話 「週末の約束事」

「もうすぐ、期末テストね」  

 週末の放課後、学校帰りに高宮がそんなことを聞いてきた。

「……そうだったな」

 俺は、気の無い声でそう答えた。

「あたし今回、ちょっと自信ないのよね……」

 そう言って、意味ありげな目線を出してくる。

「明日さ、もし良かったら浅田君の家で……」

 そう言いかけた所だった。

「いいねそれ!涼一君の家かあ、一回行って見たかったんだよね〜」

 どこからか瑞樹が登場した。

「ちょ……瑞樹君!どこから出てきたの!」
「やだなあ〜、ちょっと気配を消して近づいただけじゃないか」
「……一体、何をしているんだ」 

 気付くと、いつもの面々が揃っていた。

「ウチで勉強するの?」

 恵美が、意外そうな顔をして言った。

「僕ね、今回に限ってあまり勉強してなかったんだ。
 もし、よろしければ涼一君にテスト対策の手ほどきでもと思ってね。ねえ、どうかな?」 

 瑞樹は、両手を併せて俺に頼み込んでくる。

「なぜ俺に……別に、勉強が得意な訳じゃないぞ」
「またまた〜、ケンソンしちゃって。キミに教わらないで、ダレに教わるっていうんだ?」
「……あのな」
「はいはーい!加奈も行きたいでーす!」
「何言ってんだよ、一年生のオマエが二年生の僕達の勉強に入ってどうするんだ?」 
「ずるーい、お兄ちゃん達ばっかり!加奈も勉強したいのに、したいのに、したいのに〜!」
「まったくしょうがないな……でも、これは涼一君が決めることだからね〜」
「えぇ〜……浅田先輩、どうなんですかぁ?」
「どう、と言われてもな・……家でやるとしたら、俺の部屋か?」
「そりゃあ、できればね」

 こいつらは、俺の家で勉強がしたいと言っている。
 たしかにテストが近いから、勉強をしなければならない気持ちは判る。
 だが、俺自信テスト勉強などほとんどしたことがない。
 教科書を見て、授業をそこそこに聞いていれば大概は理解できるからだ。まして人に教えるなど……

「……俺の部屋は、そんなに広くないぞ?」
「構わないって!狭かろうが汚かろうが騒音でうるさかろうが、全然オッケーだって」
「そこまで、ひどくはないがな……」
「それじゃ、いいんですかぁ!」
「まあ……勉強をするくらいならな」
「いやったあー!」

 瑞樹と妹は、手を取り合って喜んでいる。

「……浅田君、最初あたしが頼んだんだけど」

 高宮が、睨むような視線を向けた。

「別に構わないが……あまり人が増えるのもな」
「だったらさ、あたしの部屋ですればいいじゃない」
「恵美」
「そうすれば、人数増えても大丈夫じゃない。ねえ、由紀子」

 そこで会話を振られると思っていなかったのか、北村が驚いて顔を向ける。

「えっ?」
「当然、あなたも来るんでしょ?」
「あ、あの……いいんですか?」
「別にいいんじゃない。勉強するなら、あたしも願ったりだし」
「はい、ありがとうございます」
「明日かー、掃除しとかなきゃ……」
 
 そう呟きつつも、恵美はどことなく嬉しそうだった。

「……ということらしい、村上はどうするんだ?」
「俺か?勉強なんてウザったいのは、したくねえけどな……」

 そういう村上の視線の先には、瑞樹達が浮かれている様子があった。

「あの兄妹を放っておくにはいかねえだろ?」 

 そう言って、両手をすくめた。

「ご苦労なことだな」
「なーに、俺もオマエの部屋がどういうのか興味あるからな」
「皆何をしに来るのだか……」

 明日の勉強会を前にし、俺達はそれぞれ帰途に着いた。

「アンタが部屋に他人を入れるなんて、久しぶりじゃない?」

 家に帰る途中、恵美がそんなことを聞いてきた。

「まあ……な」

 さて、明日はどうなることやら。