第三十七話 「涼一、バイトをする (五日目)」

 目が覚めた。

「・・・・・」

 今日は日曜日、夕方のバイトまでゆっくりしていられる。

「・・・・・」

 再び目を閉じた。

「・・・・・」

(・・・とはいえ、すぐには寝付けないな・・・起きるか)

――ガバッ

 布団を跳ね上げ、俺は身を起こした。

――トントントン・・・

 階段を降り、居間に入る。

「・・・・・」

 誰もいない。

(・・・風呂にでも入るか)
 
 俺は着替えを持って風呂場に向かった。

――シャアアアー・・・

 と思ったら誰か使っていた。

「・・・・・」

 仕方なくまた居間に戻る。

――プツン

 なんとなく手元無沙汰な気分なので、とりあえずテレビをつけてみる。

「・・・・・」

 こんな朝に目を引く番組なんかやっているはずが無い、
 とりあえずニュースにチャンネルを合わせた。

『今日は全国的に晴れるでしょうが、関東地方に厚い雨雲が覆っております。
 午後からにわか雨が・・・』

 天気予報を見ていた時だった。

「・・・ねーえ!お父さんか涼一いるー?」

 風呂場の方から声が聞こえてきた、どうやら入っていたのは恵美らしい。

「・・・・・」

 とりあえず風呂場に行ってみる。

「・・・どうした?」

 擦りガラスの向こうに声を掛けてみる。

「あっ、涼一!悪いけどバスタオルもってきてくんない?
 あたしったら、ベランダに干してたの忘れてて・・・」
「・・・わかった」

 俺はベランダに向かった。

――・・・パチン・パチン

 干してあったバスタオルほ洗濯バサミからはずし、再び風呂場に戻った。

「・・・持ってきたぞ」
「あっ!ありがと」

――ガラッ
 
 ガラス戸が少し開き、隙間から濡れた手が出てきた。

「・・・・・」

 俺はその手にバスタオルを渡した。

「ねえ」
「・・・ん?」

 今度は恵美は顔だけ見せてこちらを覗き込んできた。

「・・・せっかくだから一緒に入る?」
「あほ・・・」
「えへへ」

――ピシャッ

 ガラス戸が閉まる音を聞きつつ、俺は居間に戻った。

「・・・・・」

 しばらくテレビを見ながら風呂場があくのを待っていた。

(さてと・・・バイトまで何をして過ごすかな・・・)

――ガラガラ・・・

 風呂場の戸が開く音が聞こえた、多分あがったのだろう。
 俺は服とタオルを手に風呂場に向かった。

「あれ?涼一も入るの」

 頭をタオルで拭きつつ恵美が出てきた。

「ああ・・・タオルくらい常備しておけ」
「はいはい、わかりましたー」
 
 脱衣所で寝巻きを脱ぎ、浴室に入る。

――キュッキュ・・・シャアアーーーッ

 さっきまでお湯を出していたので、温度調整が早く済む。

――シャアアーーッ・・・

 ひとしきり湯を浴び、浴室を出た。

「・・・・・」
 
 身体についた水分を拭き、TシャツとGパンに着替える。

――ガラッ

 濡れた髪を手でかきあげつつ居間に戻った。
 するとさっきあがった恵美が牛乳を飲んでいた。
 たしかこれから朝連だったと思う。
 部活をやっている奴は日曜日も学校にいかなければならないので大変だ。

「・・・もらうぞ」
「うん」

 台所から持ってきたコップに牛乳を注ぐ。

――ゴクゴク・・・

 飲み終わったコップを炊事場に置いてきて、俺は自分の部屋に向かった。

「・・・・・」

 戸棚をあさり、適当に本を選んで暇をつぶす。

「・・・・・」

 そんな風に昼近くまで部屋にこもっていた。

(さてと・・・腹減ったな)

 下に下りて昼食を食べる。
 これから午後何をしようかと思ったが結局何もいい考えが出ず、
 とりあえず外に出かけようと思った。

(・・・どこに行くかな?)

 そう思いつつ街中をぶらつく。

「・・・・・」

 気がつくと本屋に来ている自分に少しため息が出る。

(・・・まだ早いが、店に行ってみるか)

 そう思い、店の方へ足を向けた。

「あれ?涼一君」
「・・・どうも」

 事務室に入ると久坂さんがいた。

「こんな時間に来て・・・まだ早いんじゃないか?」
「ええ・・・まあ、暇なんで何かすることはありませんか?」
「そうだなあ・・・
 いまの時間だと、倉庫整理にまわってもらうことになるよ。いいかい?」
「あっ・・・いいですよ」

 という訳で、倉庫整理を手伝うことになった。

「やあ、手伝ってくれるんだって?よろしく」
「どうも・・・」

 その場にいた男性従業員の指示の元、俺は働いた。

「・・・あっ、それはそっちに運んでくれ」
「はい」

 黙々と荷物を運び出す。

(・・・こっちの方が楽だな)

「ふう・・・ちょっと休憩しようか?」
「あっ、はい」
「見た目によらず体力あるね」
「そうですか?」
「・・・確か君はウエイターだったな、どうしてここで?」
「いや、別に・・・ただ夕方まで暇だったんで」
「へえ・・・物好きだね」
「・・・・・」
「あっちと違って力仕事だからな、つらいだろ?」
「いえ・・・こっちの方がいいですよ、変な気を使わなくてすみますし」
「そんなもんか?」
「ええ」

 こうしてひとしきり倉庫整理を手伝った。