「ねえねえ、うちって・・・こんなに流行ってたっけ?」
「さあ・・・」
俺が来るなり瀬名さんはそうつぶやいた。
「あ・・・彼よ!」
「ウエイターさ〜ん!こっちこっち〜!」
俺の姿を確認した客はさっそく声を掛けてきた。
「・・・な〜るほど」
瀬名さんは俺を横目で見据えた。
「・・・なんですか?」
「ううん・・・浅田君、ご指名よ。いってらっしゃい」
「・・・・・」
(そういう店じゃないだろう・・・)
そう思いつつ俺はオーダーを取りに行った。
「・・・ご注文はお決まりでしょうか?」
「それよりー、アナタここで・・・」
「・・・お決まりになりましたら再びお呼びください」
「あーん、もう・・・待って〜」
「・・・・・」
なぜか昨日から客が増え始めた。
「あの〜・・・すいませ〜ん!」
「・・・・・」
俺は忙しく動き回る。
(まったく・・・)
あまり愉快な気分とは言えない。
―――昨日
「久坂さん・・・」
「おっ、涼一君お疲れ様。いやー・・・君のおかげで随分な売れ行きだよ」
「・・・・・」
「だいぶ慣れてきたみたいだね、一週間だけの手伝いだなんてもったいないくらいだ」
「・・・あの」
「ん?何かね」
「せめて・・・倉庫整理か皿洗いにしてくれませんか?」
「ははは!面白い冗談だ、じゃまた明日もよろしく頼むよ」
「・・・・・」
(手伝うと言った手前、むげに断る訳にもいかないしな・・・おじさんの顔もあるし)
「ねえ〜ちょっと、ウエイターさ〜ん!」
「・・・はい」
体力的にはどうってことはないが、精神的につらいものがある。
――ガヤガヤ・・・
あちこちから視線を感じる、まるで見世物だ。
「はいこれ、4番テーブルに持って行って」
「わかりました」
「君は若い女の子担当だからね」
「・・・いつから決まったんですか」
食事を運ぶとそのテーブルから声が上がる。
(・・・本当に食事しに来ているのか、こいつらは?)
―――休憩時間
「・・・・・」
事務室の椅子に腰掛け、しばし休憩する。
「はあい、お疲れ様」
瀬名さんも休憩のため部屋に入ってきた。
――コポコポ・・・・
「浅田君、コーヒー・・・」
「・・・・・」
俺は手元の紙コップを見せた。
「あ、なんだ・・・もうもらってるのね」
「・・・・・」
瀬名さんは俺と向き合うような形で腰掛けた。
――ズズ・・・
「・・・もしかして昨日もこんなんだったの?」
「ええ・・・まあ」
「大変ねー・・・まっ、浅田君のおかげで売上が伸びてるだろうから。
うちとしては嬉しいんだけど」
「・・・・・」
「ふーん・・・」
瀬名さんは俺の顔をまじまじと見つめる。
「・・・なんですか?」
「たしかにカッコイイわね、うん」
「・・・・・」
そう言って後ろ髪をいじりながらケラケラと笑う。
「ふふ・・・学校でもあんな感じなの?」
「・・・さあ」
「あら?冷たいのね、そんなんじゃ女の子には・・・モテてるわね」
「・・・・・」
「あなたって変わってるわね。
普通あんな風にキャーキャー言われたらもっと嬉しそうにしてもいいんじゃない?」
「別に・・・」
「もしかして、そんなことはとっくに慣れちゃって動じないとか?」
「・・・・・」
「ひょっとして・・・アッチ系?」
「・・・は?」
「ジョーダンよ!ジョーダン・・・」
「・・・・・」
――ズズ・・・
「仕事姿見てると、なんか嫌々やってるって感じがするわね」
「・・・そうですか?」
「なーんとなくね・・・嫌だったら辞めちゃえば?」
「いえ・・・」
「人手が足りなくて来てもらったのに、さらに忙しくされちゃあね・・・」
「・・・・・」
「店長もそんなことは考えもしなかったと思うわよ、だから計画的な企みなんかないからね」
「はあ・・・」
とりあえずうなずくしかない。
「さてと・・・そろそろ行った方がいいんじゃない?
浅田君があんまり姿を消してると彼女達が暴動を起こすわよ」
「・・・・・」
そうして立ち上がり、俺達はまた仕事に戻った。
「いらっしゃいま・・・」
「ほらっ!涼一サマがいるでしょ?」
「ほーんと!アユミの言った通りねー」
「こんにちは、私達来ちゃいましたー」
「・・・三名様ですね、どうぞこちらへ」
「はーい!どこまでも着いていきまーす!」
(こいつらまで・・・どこから知ったんだ?)
そう思いつつ、仕事に専念した。あまり気することではない・・・
「・・・涼一、バイト大丈夫?」
家に帰ってから、恵美がそんなことを聞いてきた。
「大丈夫・・・って何が?」
「今日も昨日みたいに忙しかったでしょ」
「まあ・・・」
「アンタああいうの苦手じゃない」
「・・・・・」
「頼んで辞めさせてもらったら?別に働かせてくれって頼んだわけじゃないでしょ?」
「ああ・・・だけど、いいよ別に」
「・・・でも」
(そんなに嫌そうにやっているように見えるのか?・・・まあ、確かに愉快ではないが)
「心配する必要はないさ・・・どうせあと三日だ」
「・・・まあ、そうだけどね」
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