「・・・今日も涼一君はバイトだよね?」
「うん・・・」
「気になるなあ・・・一体どんな風に働いてるんだろ?」
「加奈も気になる〜」
「・・・慎也、お前行こうってんじゃないだろうな?」
「お?良くわかったね、ちょっとだけ見てこようかなぁ・・・なんて」
「でも・・・お仕事中にお邪魔なんじゃ・・・」
「なーに、客としていけばいいんじゃない?売上にも貢献するし」
「お兄ちゃんにさんせーい!」
「浅田君が働いている姿か・・・なんか想像つかないわね」
「うーん・・・確かに、適当にこなしてるとは思うけど」
「さて、決まった所で・・・しゅっぱーつ!」
・・・という訳であたし達は涼一が働くファミレスに行くことになった。
「あ・・・あそこよ」
「ふ〜ん・・・よし、じゃあ入ろうか?」
――プシュー・・・
「わあ・・・」
中に入ってみてちょっと驚いた。
――ガヤガヤ・・・
「うわ、女の子がいっぱい・・・目移りしちゃうなあ・・・」
「ここって、そんなに人気があるんですか?」
「・・・あたし、前に来たことがあるけど。
そうでもなかったわよ・・・むしろ普通だった」
「あ・・・浅田先輩だ!」
見ると、涼一がテーブルの前で注文を聞いているようだ。
(へえ・・・ちゃんとやってるじゃない)
「いらっしゃいませ、6名様ですね?こちらへどうぞー」
店の人に誘われ、あたし達は奥のテーブルについた。
「いらっしゃいませ・・・」
「やっ、涼一君」
「こんにちは」
「きちゃいましたー」
「・・・メニューはお決まりでしょうか?」
「ええと・・・」
あたし達はそれぞれ飲み物など軽いものを注文した。
「・・・・・」
その際涼一は何も言わずメニューを取っていた。
「ねえ涼一、この店なんでこんなに若い子の客が多いの?」
「・・・さあな」
それだけを言い残して去っていった。
「・・・なんでかな?」
「ふふん、僕にはもうわかってるけどね・・・ほら」
瑞樹君が指す方角では・・・
「ウエィターさ〜ん!こっちこっち〜!」
涼一が他のテーブルに呼ばれていた。
「きゃあ!きたきた・・・」
「・・・ご注文はお決まりでしょうか?」
「ねぇ、イイでしょ彼?」
「ほーんと!言ったとおりねー」
「・・・・・」
涼一が近づいただけで黄色い声が飛び交っている。
「なるほど・・・」
「・・・浅田君狙いね」
「ずるーい!」
「・・・・・」
「涼一君はここで三日目だろ?早くも嗅ぎ付けられたんだね〜」
「へぇ・・・物好きねぇ、アイツに・・・」
「見なよ、あの子もあの子も・・・浅田君を目で追ってるよ。ははは、いいねぇ・・・」
「・・・慎也、目が笑ってないぞ」
そんな女の子達は無視して涼一は冷静にメニューを取る。
(・・・まっ、アイツらしいわね)
「ねえねえキミタチ、どこのガッコ?」
「お兄ちゃん!さっそくナンパしないの」
「だってぇ〜・・・ああ、もう・・・僕もここでバイトしようかなぁ・・・」
そんなこんなしているうちに注文の品を涼一が運んできた。
「おまたせいたしました・・・」
「あっ、ありがとーございまーす」
「ええと、それ僕のね・・・これは?」
「あ・・・私のです」
「・・・どうぞごゆっくり」
そう言って涼一は下がろうとする。
「あ、待って涼一」
「・・・・・」
「こういう状況・・・楽しい?」
「・・・・・」
何も言わずに向こうへ行ってしまった。
「・・・あんまり楽しそうじゃないみたいねー」
「よかった・・・」
「えっ?何、北村さん」
「い・・・いえ、なんでも・・・」
「しかし、あいつも大変だな。こんな状況になるとは思わなかっただろう」
「言えてるねぇ…もしかして、こうなることを予測されて手伝わされたんじゃないかい?」
「・・・そうかも」
見ると涼一はあっちこっちのテーブルを移動している。
本当に休む暇も無いって感じだ。
「ねえねえ、バイト?」
「・・・ご注文を繰り返させていただきます」
「ねーえ、ちょっとお・・・」
――ツツ・・・
ジュースを飲みつつそんな状況を眺める。
「大変そうですね・・・」
「・・・うらやましいんだけど〜」
「慎也、しつこいぞ」
「浅田君・・・なんでこのバイト断らなかったのかしら?」
「さあ?父さんは・・・社会勉強とかだって言ってたけど」
「別に浅田先輩はお金に困ってるわけじゃないんですよね?」
「たぶんね、アイツ読書以外に金をかけない安上がりな奴だし」
「・・・浅田君って、こう見ると結構似合ってるかもしれないわね。
あの服装なんかも以外としっくりするし」
「あの黒いジャケットに蝶ネクタイ・・・うーむ、そう言われるとなんとなく・・・」
「恵美さん、涼一さんはこういうお仕事の経験があったんですか?」
「ううん、バイト自体始めてなんじゃないかな。
だから今回一番ビックリしたのはあたしよ」
「ふうん・・・」
各々品を平らげ、そろそろ帰ろうかという時になった。
「・・・合計2310円になりまーす、けどいいらしいですよ」
「えっ、どういうことですか?」
「あなたたち彼のお友達でしょ?オゴリだって言ってたわ」
「浅田君が?」
「そんな・・・でも」
「ラッキー!」
「お兄ちゃん!・・・でも本当にいいんですか〜?」
「ええ、彼がそう言ってたから」
「ふうん・・・アイツもやるじゃない、ここは甘えていっちゃいましょうよ」
「でも・・・悪いんじゃない?」
「気にしない気にしない、普段アイツが世話になってるからそのお礼よきっと」
「私はそんな・・・」
「さあさあ、涼一君の好意を無駄にするほうが失礼だ。
ここはおとなしく従おうじゃないか」
「うん・・・恵美さん、浅田先輩にお礼を言っておいてくださいね?」
「わかったわ、ちゃんと言っとく」
「あたしからもね」
「あの・・・私も」
「さてと、帰りますとするか。ごちそうさまでした〜」
そうしてあたし達はそれぞれ帰路についた。
(・・・アイツもいいとこあるじゃない、帰ってきたらサービスでもしてやろうかな?)
帰る途中ちょっとそう思った。
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