第三十五話 「涼一、バイトをする (三日目)」

「・・・今日も涼一君はバイトだよね?」
「うん・・・」
「気になるなあ・・・一体どんな風に働いてるんだろ?」
「加奈も気になる〜」
「・・・慎也、お前行こうってんじゃないだろうな?」
「お?良くわかったね、ちょっとだけ見てこようかなぁ・・・なんて」
「でも・・・お仕事中にお邪魔なんじゃ・・・」
「なーに、客としていけばいいんじゃない?売上にも貢献するし」
「お兄ちゃんにさんせーい!」
「浅田君が働いている姿か・・・なんか想像つかないわね」
「うーん・・・確かに、適当にこなしてるとは思うけど」
「さて、決まった所で・・・しゅっぱーつ!」

 ・・・という訳であたし達は涼一が働くファミレスに行くことになった。

「あ・・・あそこよ」
「ふ〜ん・・・よし、じゃあ入ろうか?」

――プシュー・・・

「わあ・・・」

 中に入ってみてちょっと驚いた。

――ガヤガヤ・・・

「うわ、女の子がいっぱい・・・目移りしちゃうなあ・・・」
「ここって、そんなに人気があるんですか?」
「・・・あたし、前に来たことがあるけど。
 そうでもなかったわよ・・・むしろ普通だった」
「あ・・・浅田先輩だ!」

 見ると、涼一がテーブルの前で注文を聞いているようだ。

(へえ・・・ちゃんとやってるじゃない)

「いらっしゃいませ、6名様ですね?こちらへどうぞー」

 店の人に誘われ、あたし達は奥のテーブルについた。

「いらっしゃいませ・・・」
「やっ、涼一君」
「こんにちは」
「きちゃいましたー」
「・・・メニューはお決まりでしょうか?」
「ええと・・・」

 あたし達はそれぞれ飲み物など軽いものを注文した。

「・・・・・」

 その際涼一は何も言わずメニューを取っていた。

「ねえ涼一、この店なんでこんなに若い子の客が多いの?」
「・・・さあな」

 それだけを言い残して去っていった。

「・・・なんでかな?」
「ふふん、僕にはもうわかってるけどね・・・ほら」

 瑞樹君が指す方角では・・・

「ウエィターさ〜ん!こっちこっち〜!」

 涼一が他のテーブルに呼ばれていた。

「きゃあ!きたきた・・・」
「・・・ご注文はお決まりでしょうか?」
「ねぇ、イイでしょ彼?」
「ほーんと!言ったとおりねー」
「・・・・・」

 涼一が近づいただけで黄色い声が飛び交っている。

「なるほど・・・」
「・・・浅田君狙いね」
「ずるーい!」
「・・・・・」
「涼一君はここで三日目だろ?早くも嗅ぎ付けられたんだね〜」
「へぇ・・・物好きねぇ、アイツに・・・」
「見なよ、あの子もあの子も・・・浅田君を目で追ってるよ。ははは、いいねぇ・・・」
「・・・慎也、目が笑ってないぞ」

 そんな女の子達は無視して涼一は冷静にメニューを取る。

(・・・まっ、アイツらしいわね)

「ねえねえキミタチ、どこのガッコ?」
「お兄ちゃん!さっそくナンパしないの」
「だってぇ〜・・・ああ、もう・・・僕もここでバイトしようかなぁ・・・」

 そんなこんなしているうちに注文の品を涼一が運んできた。

「おまたせいたしました・・・」
「あっ、ありがとーございまーす」
「ええと、それ僕のね・・・これは?」
「あ・・・私のです」
「・・・どうぞごゆっくり」

 そう言って涼一は下がろうとする。

「あ、待って涼一」
「・・・・・」
「こういう状況・・・楽しい?」
「・・・・・」

 何も言わずに向こうへ行ってしまった。

「・・・あんまり楽しそうじゃないみたいねー」
「よかった・・・」
「えっ?何、北村さん」
「い・・・いえ、なんでも・・・」
「しかし、あいつも大変だな。こんな状況になるとは思わなかっただろう」
「言えてるねぇ…もしかして、こうなることを予測されて手伝わされたんじゃないかい?」
「・・・そうかも」

 見ると涼一はあっちこっちのテーブルを移動している。
 本当に休む暇も無いって感じだ。

「ねえねえ、バイト?」
「・・・ご注文を繰り返させていただきます」
「ねーえ、ちょっとお・・・」

――ツツ・・・

 ジュースを飲みつつそんな状況を眺める。

「大変そうですね・・・」
「・・・うらやましいんだけど〜」
「慎也、しつこいぞ」
「浅田君・・・なんでこのバイト断らなかったのかしら?」
「さあ?父さんは・・・社会勉強とかだって言ってたけど」
「別に浅田先輩はお金に困ってるわけじゃないんですよね?」
「たぶんね、アイツ読書以外に金をかけない安上がりな奴だし」
「・・・浅田君って、こう見ると結構似合ってるかもしれないわね。
 あの服装なんかも以外としっくりするし」
「あの黒いジャケットに蝶ネクタイ・・・うーむ、そう言われるとなんとなく・・・」
「恵美さん、涼一さんはこういうお仕事の経験があったんですか?」
「ううん、バイト自体始めてなんじゃないかな。
 だから今回一番ビックリしたのはあたしよ」
「ふうん・・・」

 各々品を平らげ、そろそろ帰ろうかという時になった。

「・・・合計2310円になりまーす、けどいいらしいですよ」
「えっ、どういうことですか?」
「あなたたち彼のお友達でしょ?オゴリだって言ってたわ」
「浅田君が?」
「そんな・・・でも」
「ラッキー!」
「お兄ちゃん!・・・でも本当にいいんですか〜?」
「ええ、彼がそう言ってたから」
「ふうん・・・アイツもやるじゃない、ここは甘えていっちゃいましょうよ」
「でも・・・悪いんじゃない?」
「気にしない気にしない、普段アイツが世話になってるからそのお礼よきっと」
「私はそんな・・・」
「さあさあ、涼一君の好意を無駄にするほうが失礼だ。
 ここはおとなしく従おうじゃないか」
「うん・・・恵美さん、浅田先輩にお礼を言っておいてくださいね?」
「わかったわ、ちゃんと言っとく」
「あたしからもね」
「あの・・・私も」
「さてと、帰りますとするか。ごちそうさまでした〜」

 そうしてあたし達はそれぞれ帰路についた。

(・・・アイツもいいとこあるじゃない、帰ってきたらサービスでもしてやろうかな?)

 帰る途中ちょっとそう思った。