第二十九話 「藤校のかしまし三人娘」

「とゆーわけで!二人とも、決戦の時は来た!」
「・・・どういう訳?」
「それより決戦って・・・」
「まあまあ気にしない」
「ま・・・いーわ、言いたいことはわかるし」
「同じく」
「そう!今日こそは、愛しの涼一サマとお近付きになるのだあっ!」
「・・・うまくいくかな〜」
「とりあえず、やってみようよ」
「さあさあ、順番決めるわよ!」
「ふう・・・」
「せーの!」

『ジャーン・・ケーン・・ポン!』

「・・・あたしがいちば〜ん!」
「じゃあ、あたしは二番ね」
「え〜、最後・・・」

―――一時間目終了  休み時間

「・・・で作戦名は?」
「ふっふっふ・・・名づけて!
 『廊下の角でぶつかって、あ・・・すみません、いえ私こそ・・・』作戦〜!」
「なんともわかりやすい・・・」
「いいのよ〜、あ・・・来た!」
「ほらほら行ってきなさい、アユミ」
「・・・がんばってね〜」
「いってきま〜す!」

――カッ・・カッ・・カッ・・

  もうすぐ彼が出てくる、あたしは壁に背を付けて待っていた。

「・・・うん」

  あの二人の合図によると、あと五メートル。

『4・・・3・・・2・・・』

  彼女らが指を折って、カウントダウンをしてくれる。

『・・・1・・・0!』

(いまだ!)

  私は急いで廊下に飛び出した。

「・・・あ」

  ここで彼とぶつかり、あたしはその場に尻もちをついて、
 かわいく「いったーい」とか言うハズだった。

――スカッ

「え・・・?」

  だが、彼は寸前で避けた。

――・・・ガン!

「ふぎゃ!」

  いきおいあまって、向こうの壁に激突してしまった。

「うぐぐぐ・・・はっ!彼は・・・」

  見るとすでに廊下の向こうだった。

「・・・アユミー、大丈夫?」
「いたそう・・・」
「ちょっとー!なんで予定通りにぶっかってくんないの!?」
「そりゃ・・・まあ」
「ぶつかってくるものを避けたくなるのが人間よね〜」
「・・・それを先に言ってよ!」
「まあまあ、とりあえずアユミは失敗・・・と」
「え〜っ・・・」
「次はユウコね、作戦は?」
「ふふ・・・後のお楽しみ」
「ちょっとー!あたしあれで終わり?せめてもう一回・・・」

「だめー!」「だめー!」

「けち・・・」

―――三時間目終了  休み時間

「・・・で、ユウコはどうするの?」
「コレよコレ」
「生徒手帳・・・?」
「彼の目の前で、何気なーく落として拾わせる・・・そうすれば出会いのキッカケになるわ」
「な〜るほど!」
「・・・ふ〜ん」
「じゃ!行ってくる」
「がんばってね〜」
「・・・・・」

  数冊の教科書を持ち、あたしは彼が歩く前を通った。

――ごそごそ

  片手で教科書を持ち、さも苦労してポケットをまさぐる。

――ぽとっ

  ハンカチを出した所で、上手く生徒手帳も落ちた。

「・・・・・」

  あたしは当然気付かない振りをして歩く。

(そろそろ・・・)

「・・・もしもし、落しましたよ」

  後ろから声が掛かった。

「は・・・はい!・・・え?」

  振り向くと、見知らぬ男子生徒だった。

「あ・・・ありがとう、じゃ」
「え?・・あ・・」

――ピュウーーーッ・・・

  あたしは生徒手帳を受け取り、そそくさとその場を去った。

「ユウコもしっぱ〜い」
「やっぱりねー・・・」
「はあはあ・・・どういうことよ?」
「ほら・・・目の前で落としたとしても、必ず彼が拾ってくれるとは限らないんじゃない?」
「あ・・・」
「廊下には他にも人がいるし・・・ちょっと無理っぽかったねー」
「う・・・うるさいわね!」
「さってと〜、最後はサヤカね」
「自信あんの〜?」
「まっかせて、完璧だから」

―――昼休み  中庭

「・・・あ!出てきた」
「本当に大丈夫?」
「このバレーボールで・・・」
「そう、彼に向かって投げて」
「でも・・・」
「・・・ねえ」
「なによ〜、彼に向かってきたボールをあたしが『きゃあ!危ない!』と言いつつ、
 体を張って止める・・・の何がおかしいの?」
「だって〜、もし・・・止められなくてぶつかったら・・・」
「・・・完全にあたし達、嫌われるよ」
「大丈夫!あたしが何がなんでも止めるから、そしたら『君、大丈夫?』とか言われて、
 『いえ・・・平気です』とか言って、親しくなるんだから」
「うまくいくかな〜?」
「う〜ん・・・」
「親しくなったら、アナタ達にも紹介するから」
「よし!やりましょう」
「あの位置でいい?」
「おっけ〜、ではスタンバイ!」

  あたしは彼とすれ違うため、反対方向に廻った。

(よし・・・ここから)

  あたしは彼にむかって歩き出した。

(・・・来た!)

  彼もこちらに向かって歩いている、彼の後方には彼女らが待機している。

『いい?』

  むこうがサインを出した。  

『まだ・・・』

  あたしは軽く手を横に振る。

(・・・もう少し)

  彼との距離が縮まってくる。

『・・・今よ!』

  手を少し上げ、合図を出した。

――ポ〜ン・・・

  ボールは起動を描いて、彼の頭の後ろに飛んでくる。

(それ!)

  あたしは急いで彼に寄った。

「危な・・・」

――ビシッ!

  すると彼は、後ろ向きのままボールを手で払った。

「・・・ボールか」

  そうつぶやくと、彼はそのまま去っていった。

「・・・・・」

  あたしはそのまま、ぼけ〜っと立っていた。

――タッタッタ・・・

「ちょっと〜サヤカ、何今の?」
「彼が・・・ボールを・・・」
「見てたわよ〜、涼一サマってすごいね〜!」
「・・・うん」
「後ろ向きでボールを払うなんてね」
「・・・でも、これで三人とも失敗ね」
「そうね・・・」

  あたし達はそのまま、彼の話しをしながら教室に帰った。

―――放課後  屋上

「・・・こないねー」
「うん・・・」
「こないだは来てたんだけどなー・・・」
「帰っちゃったんじゃない?」
「そうかも・・・」
「あ〜あ・・・最後の『三人そろって、突撃大作戦!』も不発か〜・・・」
「・・・そのネーミングが悪いんじゃない?」
「何よ〜!関係ないじゃない!」
「・・・やっぱり、素直に教室の外で待ってたほうが良かったんじゃ」
「だめよ〜!彼が一人っきりの所を狙わなきゃいけないんだから!」
「でも・・・ここに来るっていう保証も・・・」
「ないしね」
「・・・・・」

――パラッ

「はぁ・・・愛しの涼一サマはどこに・・・」
「その手帳の・・・アユミ!何それ!」
「・・・ちょっとー!涼一サマの写真じゃない!」
「ふっふ〜、いいでしょ?」
「アンタ、いつの間に?」
「そうよ〜」
「な・い・しょ」
「えぇ〜、ちょっと見せてよ!」
「そうよ、そうよ!」
「あ・・・ちょっとだめよ!」
「いいじゃないの〜」
「貸しなさい!」
「コラ!引っ張らない・・・」
「あっ!」

――ヒュウゥーー・・・・・パサ

「あーっ!」
「フェンスの向こうに・・・」
「・・・あっちゃ〜」
「どーすんのよ!」
「いや・・・今のは事故だって」
「・・・でも、あんなとこ取れないよ。どうする?」
「もちろん・・・取ってくる!」
「ちょっと〜、アユミ〜」

――ガシャ・・ガシャ・・

「危ないって・・・おりなよー」
「うっさいわねー・・・ユウコとサヤカは、誰かこないか見張っといて」
「は〜い」
「もう・・・」

――トッ

「よしっ・・・とれたー!」
「ほらっ、早く早く!」
「うん・・・あっ!」

――ズルッ

「きゃあっ!」
「あ・・・アユミっ!」
「わわわ・・・大丈夫!」
「ちょっと・・・やばいかも・・・」

――グググ・・・

「ほらっ!しっかり両手で縁につかまって!」
「だ・・・だれか呼んでくる?」
「だめよ・・・間にあわ・・」
「ちょっと待って!今行く!」

――ガシャ!ガシャ!

「もう・・・だ・・め・・・」

――・・・ズッ

「アユミー!!」
「きゃあーっ!!」


(あたし・・・このまま死んじゃうの?)

  そう思った時だった。

――ガシッ!

「え・・・?」

  何か力強い物に掴まれ、あたしは空中で止まった。

――グイッ

  そのまま窓から校舎に引き寄せられる。

――ボテッ

「あっ」

  あたしは廊下にへたり込んだ。

(一体・・・何が?・・・助かったの?)

「あ・・・あの・・・ありがとう・・・」

  目の前には、長い二本の足が見える。

「・・・気を付けろ」

  頭の上からそんな声が聞こえた。

「えっ?・・・ああっ!?」

――カッ・・カッ・・カッ・・

  彼・・・涼一サマは、そのまま廊下の向こうへ去っていった。

「涼一サマが・・・」

  あたしはしばらくその場にへたり込んでいた。

――・・・バタバタバタ!

「アユミー!」
「大丈夫ー!」
「あ・・・二人とも」
「ねえ!上から見てたら、そこの窓から腕が出て・・・」

  そう言ってユウコは、あたしが入って来た窓を指す。

「この階に入るとこ見たから、あたし達慌てて・・・」
「・・・ねえねえ、誰に助けてもらったの?その人はどこ?」
「え・・?あ・・その」
「え?何」
「はっきり言いなさいよー!」
「・・・涼一サマ」
「へ・・・?」
「・・・ウソでしょ?」
「ホント」
「マジでーっ!」
「で!で!・・彼は!」
「あ・・・行っちゃった」
「えぇ〜!」
「チャンスだったんじゃな〜い」
「な・・・何言ってんのよ!あたしは死に掛けたんだから!」
「でも〜、せっかく涼一サマと知り合えたのに〜」
「そうよね〜」
「あ・・・アンタ達はーっ!!」