第二十八話 「現在への疑問」

  久しぶりに屋上に上がることにした。

――屋上

「浅田先輩って〜、好きな人いるんですか?」
「・・・は?」
「だから〜、気になっている女の人とかですよ〜」
「・・・いないさ」
「ホントですか〜?」
「ああ・・・」
「そりゃそうだよ〜・・・昔あんな・・」

――ガスッ!

「いたっ!何すんだよ正弘!」
「ひそひそ・・・その話しは禁句だろ!」
「ひそひそ・・・あ、そうだったね。ごめん」
「・・・どうした?」
「いや〜なんでもないって。はははは・・・」
「・・・・・」
「・・・そういえば、涼一って近寄ってくる子はみんなフっちゃうよね・・・
 結構、告白とかされてるくせに」
「えっ!そうなの浅田君」
「・・・まあな」
「やっぱり・・・」
「でさ〜、一年の時だっけ?アンタ、ラブレター貰って呼び出されたよね」
「・・・・・」
「で、どうなったんですか〜?」
「すごいわよ、
 『君なんか何とも思わない、二度と近づくな』
 ・・・って言って、もののみごとに返り討ち」
「うわ〜・・・」
「その子・・・同じクラスの子でね、結構親しかったんだ。
 だから、なぐさめるの大変だったよ」
「・・・・・」
「涼一さん・・・本当ですか?」
「・・・ああ」
「浅田君、それは・・・ちょっとひどいと思うな」
「そのとお〜り!女の子には優しく接してあげるべきだよ、涼一君!」
「・・・・・」
「・・・まっ、そんな冷たい奴も、この頃少しずつ変わってきたけどね」
「・・・そうか?」
「そ〜よ〜。昔のアンタなら、今ごろ一人で本でも読んでんじゃないの?」
「・・・・・」

(たしかに、そうだ・・・)


「つまり・・・この分解により・・・」

  授業中、自分のことを考えていた。

(・・・俺はこの頃・・・人との交流が多くなっている)

  あいつらとの接触の回数が増えるうちに、それが段々自然になっていった。
 その際に自分も変わっていったのだろう。

(色々あったからな・・・)

  本当に色々あった・・・最初は、随分色んな人間に絡まれると思った。
 そうしたら・・・道場に連れて行かれて試合したり、
 担任に呼ばれてテストに疑惑を持たれたり、
 十年以上昔の友達と町で偶然会ったり・・・

(・・・なんだろう・・・・これからも・・・・そういうことが続きそうな気がする)
  
  このような出来事が波紋を広げ、また新たな展開が生まれてきそうな気がする。

「・・・・・」

  ふと自分の手のひらを見つめる。

(・・・このままでいいのだろうか?)


―――放課後

「・・・・・」

  俺は人の全くいない屋上に来た。

(一人でいるのが・・・久しぶりだ)

  ベンチに座り、本を取り出そうとして・・・止めた。

――ワーッ・・ワーッ・・・  

「・・・・・」

  グランドから、部活に精を出す者達の声が聞こえる。

(・・・今の自分が、正しいのだろうか?)

  そうすると、今までの自分を否定することになる。
 あの時から・・・人との関わり合いを避けてきた自分を。

「・・・・・」

  間違っていたとは思えない。
 だが・・・正しいとも思えない。自分の生き方を決める・・・
 誰もが考えることで、誰もが答えを出さなければならない問題だ。
 その結果がどう出ようとも・・・

(こんなことをしていると・・・)

――ガチャ

  屋上の扉が開き、中から一人の女子生徒が出てきた。

「あ!やっぱりここにいた!」

(・・・ほらな)

  高宮は俺の座っているベンチに寄ってきた。

「・・・一人で何してるの」
「ちょっと・・・考え事」
「ふうん・・・」

  その時、高宮はベンチに目を向けた。

「・・・いいよ」
「え?」
「隣り・・・だろ?」
「あ・・・うん」

  少し遠慮げにベンチに座る。

「どうしてわかったの?」
「・・・そんな顔してた」
「え?・・・あ・・そう」
「最初も・・・こうだったな」
「え、何?」
「最初高宮が・・・俺に話し掛けた時も、こうやってベンチに座った」
「あ・・・そうだね」
「あれから変わったのか・・・」
「え?」
「・・・・・」
「・・・・・」

  少し沈黙ができる。

「あのさ・・・考え事って何?」
「・・・聞いてくれるか?」
「あたしでよければ・・・」
「今の自分に・・・だ」
「今の・・・自分?」
「・・・そう、昼に恵美が言ってたな?俺はこの頃変わった・・・って」
「あ・・・」
「それについて・・・どう思う?」
「・・・あたしは、今の浅田君が良いと思う」
「・・・・・」
「そうじゃないと・・・前みたいに、突き放されちゃうから・・・」
「・・・だろうな」
「・・・・・」
「俺が・・・昔、交通事故があったのは知っているだろう?」
「・・・うん・・・でも」
「その時俺は女の子を見殺しにした・・・」
「浅田君は・・・!」
「いいんだ・・・その事について、今更議論しても仕方が無い・・・」
「・・・・・」
「・・・問題はそれからだ。俺はその時以来、人との関わり合いを避けてきた」
「なぜ・・・?」
「色々あるが・・・他人と関わらない方が、互いに幸せだと思った」
「そんな・・・それは違うよ」
「え?」
「浅田君は・・・・それで、本当に幸せだった?」
「・・・・・」
「あたしは違う・・・浅田君と親しくなってからの方が・・・幸せだと思う」
「・・・そう・・・なのか?」
「うん・・・」
「・・・・・」
「・・・あたしは、今の浅田君の方が良いと思う・・・みんなも・・・そう思ってるわ」
「・・・・・」
「どうなの・・・浅田君は?」
「わからない・・・たとえ今みたいに変わっていこうと思っても・・・どうしたらいいか」
「大丈夫よそれで」
「え?」
「変わろうと思えば・・・全てはそこから始まるんだから」
「・・・・・」
「大丈夫よ、あたしもついてるから・・・」
「・・・そうだな」
「・・・・・」
「・・・・・」

――トッ

  急に高宮が立ち上がった。

「まあ・・・そんなに考えることじゃないかもね、なるようになるよ」
「・・・・・」
「あたし、帰るね・・・」
「え?」
「・・・じゃあ、また明日ね」
「・・・・・」

――タッタッタ・・・

  その背中を見ていたら、立ち止まってこちらを向いた。

「・・・もう少し、女の子の気持ち見抜きなさいよー!」

――タッタッタ・・・ガチャン!

「・・・・・」

  また屋上に一人になった。