第二十話 「道場の闘い その3」

「・・・・・」
  見ると胴着を着た瑞樹の妹が立っていた。

「がは・・・!・・・可奈・・・一体・・・なんのつもり・・・だ」
「お兄ちゃん・・・可奈も瑞樹道場の娘、
 門下生や師範代をここまでした人を・・・黙って帰せません!」
「・・・だそうだ・・・慎也・・・どうする?」
「だれに似たのか・・・がはっ!・・・可奈は・・・ワガママだからねえ・・・がはっがはっ!」 
「浅田先輩のことは・・・気に入っていましたけど・・・
 それとこれとは別です!さあ・・・勝負してください!」
「・・・やれやれ、仕方ない」

  すると瑞樹の妹は構えを取った。

「さあ・・かかってきて下さい!」
「・・・・・」
「どうしたんですか・・・なら、こっちから行きますよ!」
「・・・・・」

――シャッ!

(なるほど・・・スピードは大したものだ、だが・・・)

  息をもつかせぬ勢いの連続攻撃だった。だが、俺は全てを受け流した。
「どうして!?」
  スピードに頼りすぎていて、技自体に重みが無い。簡単に流すことが出来る。
「・・・もう、やめとけ」

――ドンッ

  俺は彼女を軽く突き飛ばした。
「きゃっ!」
「・・・・・」
  そのまま後ろを向いて帰ろうとした。
「・・・待ってください、お願いです・・・あなたの本気を見せてください!」
「何・・・?」
「・・げほ・・可奈!・・・何・・言ってんだ!」
「あなたは全然、力を出していない・・・お願いです、最後に本気を見せてください!」

「・・・どうなっても知らんぞ」
  俺は右手を目の前にかざした。

――グググググ・・・

(そんなに見たいなら・・・見せてやる・・・!)

「ちょっと涼一!ウソででしょ?やめなさいよ!」

――ブウン・・・
 
「・・・・・!」
  俺は常人の目では捉えられない速さで動いた。
「ひっ・・・!」
  彼女が息を飲んだのが解った。だが、もう遅い。

――ビッ!!

  彼女の目の前に止まる・・・俺は右手を振り降ろした。

――ザシュッ!!!

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ま、こんなものか?」
「あ・・ああ・・・ああああ・・・」
  振り下ろした先の床は五本の深い亀裂が走っていた。
「可奈・・・可奈ァー!」
「大丈夫だ・・・彼女に傷つけてはいない」
  だが、彼女は腰が抜けたのか。床にへたり込んで動かない。
「いい・・・暇つぶしになった。帰るか」
  俺は道場を後にしようとした。
「え・・・あ、待ってよ!涼一ィー!」
  すると恵美がついてきた。
「ねえ・・ちょっと、あのままでいいわけ?」
  道場の惨事を指差した。
「何が?」
「いや・・その・・」
「ああ・・・床のキズか?そうだな・・・弁償しなきゃいかないかな。
 まいったな・・・つい、やってしまった」
「そうじゃなくて!まず・・・彼女達は?」
「え?」
  そういえば、高宮と北村がいたんだった。
「知るか・・・おまえが連れて来たんだろ?」
「そうだけど・・・なんか、ショック受けてるみたいよ?」
「ショック?」
  見るとたしかに呆然としている・・・しかし。
「というより・・・ほとんどの人間がそうじゃないか?」
「・・・そういや、そうね」
  道場内で、俺達以外だれも声を発しようとはしなかった。
「・・・おい瑞樹」
  俺は床に転がっている瑞樹に寄った。
「あ・・・ああ、なんだい」
「この状況・・・どうすればいい?」
「そんな事・・・僕に言われても・・・」
「・・・そろそろ立てるだろ?」
「ああ・・・なんとか・・・」
  俺は瑞樹の手を引っ張って立ちあげた。
「おい・・・可奈!しっかりしろ!」
「え・・・あ?お兄ちゃん・・・浅田先輩も・・・」
「よかった・・・無事だね・・・」
「・・・さっき、そう言ったろ」
「しかし・・・君は何をしたんだい?」
「・・・・・」
「床がこんなになるなんてね・・・」
「すまなかったな・・・床にキズつけて・・・」
「いいさ・・・それより・・・正弘!大丈夫か!」
「ああ・・・いててて・・・」
「・・・大した体だな」
「はっ、頑丈なのが取り柄でね・・・それより浅田・・・さっきのはなんだ?」
「あれが・・・君の本気かい?」
「・・・ちょっとな」
「・・・「ちょっと」だって!ウソだろ〜、あの尋常じゃない速さはただ者じゃなかったよ〜!」
「そうですよ〜・・・あたし浅田先輩が目の前で止まるまで、わかんなかったですよ〜!」
「それにこの床の傷痕・・・何をすればこんなのが付くんだ・・・?」
「・・・別に単純だよ・・・走って、手を振り下ろす・・・それだけだ」
「おかしいって〜、普通じゃないって!絶対」
「そうですよ〜、あたしも心臓が止まるかと思ったんですよ!」
「俺はこんなヤツにケンカを売ったのか・・・」
  その間に恵美は他の二人に寄っていった。
「ちょっと・・・美紀・・・由希子・・・しっかりして」
「あ・・・あれ、恵美?」
「私は・・・どうしたんでしょうか・・・あ!」
「そうだ!浅田君が・・・」
「・・・ごめんね、涼一は普段めったにあんな事しないけど・・・今日はなんか、やりすぎちゃったみたい」
「あれが・・・浅田君?」
「違うの!あれはただ・・・ただのおふざけよ」
「おふざけ・・・ですか?」
「そうよ・・・ちょっと涼一、こっち来なさい!」
「・・・なんだよ」
「あなたから言ってやって、さっきのは悪ふざけだ・・・って」
「・・・ああ、ちょっと度が過ぎたけどな」
「そう・・・でも、一体どうやって?」
「そうですね・・・私も聞きたいです」
「それは〜・・・その・・・はい、涼一」
「・・・走って・・・止まって・・・手を振り下ろす」
「そう!それをちょっと早めにやっただけよ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・じゃ、帰りましょうか?」
「ああ・・・」
  今度こそ帰ろうとしたその時だった。
「待ってくれ浅田君!」
「・・・まだやるか?」
「い・・・いや、そうじゃない・・・どう?せっかくだから家によってかないかい」
「・・・今度はなんだ?闇討ちしようとしても無駄だぞ」
「ちがうちがう!ちゃんとしたおもてなしだよ〜、反省の意味も込めてさあ〜」
「・・・・・」
「・・・そうね、涼一。行きましょうよ?今後のためにも・・・話し合いした方いいんじゃない?」
「そうだな・・・そうするか」
「よしっ!決まりだね・・・可奈、おまえそのカッコじゃなんだし、先に着替えてこいよ」
「あ・・・うん、そうだね。じゃあ先行ってま〜す!」
「ねえ・・・瑞樹君、彼女達もどうかな・・・」
「ん・・・ああ、僕はオッケーだよ。彼女達さえ良ければ」
「ですって・・・どうする?」
「ええ・・・じゃあごいっしょさせていただくわ」
「あ・・・私も・・・」
「じゃあ・・・そうだ、正弘おまえは?」
「当然行くに決まってるだろ!いつつつ・・・」
「大丈夫かい?派手にやられたからね〜」
「まあな・・・」
「すまなかったな・・・」
「いいって・・・試合で起きたことだからな・・・それより行こうぜ」
「ああ、そうだね〜・・・じゃあ出発!」
「・・・・・」