――ビシッ!・・・ガッ!・・・
「・・・せいや!」
「はあっ!」
「・・でやっ!」
中には数十人の男達が取り組みをしていた。
「よ〜、よ〜、やってるね。みんな」
「あ・・・慎也さん!お帰りなさいませ・・・村上さんに・・・可奈さんも」
「あ〜、いいって・・・そのまま続けて」
「はい!」
そう言って男は戻って行った。
「どうだい・・・涼一君、むさっ苦しいだろう」
「・・・・・」
「僕はね、ここで小さい頃から育ってきた・・・父さんに無理矢理ね」
「・・・・・」
「正弘も、小さい頃から一緒にやってきた。つまり僕らは幼なじみさ」
「・・・まあな」
「しかしね〜、僕は途中でやる気が無くなって。この頃ほとんど顔出さなかったけどね」
「まったく・・・実力はあるのに、もったいない奴だ」
「・・・・・」
「ねえ、お兄ちゃん・・・こんな所で・・・まさか」
「・・・涼一君どうだい、試合をしてみないか?」
「・・・・・」
「やっぱり!何考えてんのよお兄ちゃん!浅田先輩にケガさせる気!」
「だいじょーぶだって・・・彼は正弘の蹴りを見切ったんだよ」
「え・・・ホントですか?」
「ああ・・・本当だ、なあ?浅田」
「・・・・・」
「でも・・・」
「心配ないって〜、だったらほら・・・おい!ちょっと、君」
呼ばれて、向こうにいた男がこっちに来た。
「・・・はい、なんですか」
「君、何段?」
「いえ・・・まだ・・入りたてで」
「そうか、よし!最初にこいつと闘ってもらおう」
「・・・・・」
「どうだい?涼一君、やってみる気は無いかい?」
「・・・嫌だといったら」
「悪いけど・・・ただでは帰せないね」
「お兄ちゃん!」
「・・・わかったよ、やるさ」
「え!?」
「そ〜か〜、やってくれる気になったか!よし、そうと決まれば・・・お〜い、みんな!」
瑞樹は手を鳴らしながら道場の中央に行った。
「ちょっとこれから練習試合を始める。彼・・・「浅田 涼一」君とだ!」
「ええ・・!」
「本当ですか!」
男達は動揺をしていた。
「しかし・・・慎也さん、そんな勝手に・・・」
「僕に反論するのか?」
「い・・・いえ、その・・・」
「だいじょーぶ!幸い父さんは出かけてるし、黙ってりゃばれないって」
「・・・はあ」
「あの男が・・・」
「強いようには見えないが・・・」
男達の視線がこちらに移る。
「・・・・・」
「おい・・・自信はあるのか?相手は一応、うちの門下生だぜ」
「・・・さあね」
「はっ!お手並み拝見と行きますか・・・」
「・・・・・」
(えらい暇つぶしになったな・・・)
「・・・ねえ、どうやら涼一のヤツ試合するようよ?」
「涼一さん・・・大丈夫でしょうか・・・」
「・・恵美、止めなくていいの?」
「なんで?」
「なんで・・・って・・・心配じゃないの?浅田君のこと」
「ああ、アイツなら大丈夫よ。見た目より結構強いから」
「そんな・・・でも」
「あっ、始まるみたいですよ」
「・・・・・」
「そうだ、涼一君。そのカッコじゃなんだろ?うちの胴着でも貸そうか?」
「いや・・・いい」
「制服のままでいいってか・・・ま、いいでしょ」
「あの・・いいんですか?」
「ほら、君も開始線に立って」
「・・・はい」
「ねえ・・・お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?」
「まあ見てろって・・・おまえの大好きな浅田先輩の姿をな」
「・・・・・」
「正弘!合図頼む」
「ああ、わかった」
そして、俺と相手は道場の中央に立った。
「・・・いいんですね、本当に」
「・・・・・」
そして。
「始め!」
村上の合図で開始した。
「せやっ!」
「・・・・・」
向こうが気合を入れるために声を出す。
――ジリッ・・ジリッ・・
だんだんこっちに寄ってくる。
「・・・・・」
俺は一歩も動かない。
「はっ!」
向こうは正拳を打った。
――スッ
「・・・・・」
「えっ?」
俺は軽くかわした。
「くっ!」
続けて横蹴り・・・これも軽くかわした。
「な・・・」
向こうはあわてて下がる
「おい!何してんだー!手ぇ抜いてんじゃねーぞ!」
外野からそんな声が飛ぶ。
「くそっ!」
相手は、続けざまに攻撃を繰り出してきた。
「・・・・・」
「・・・見ろよ、慎也。言ったとおりだろ?」
「うん、いくらうちの下っ端とはいえ・・・動きづらい学生服でよくまあ、あそこまで・・・」
「・・・浅田先輩すっごーい!」
「だけど・・・なんで攻撃しないんだろ?」
「そうだな・・・・それは俺も知りたいが・・・」
次々と俺は攻撃をかわしていった。
「はあ!・・せや!・・・」
向こうも焦りの色が見えてきた。
「ああ・・・涼一さん押されてます・・・」
「大丈夫よ、全然かすってもいないわ」
「・・・でも、浅田君。なんで攻撃しないの?」
「さあ・・・遊んでんじゃない」
(遊びにもならないな・・・)
俺はかわしつつそう思った。すこしは暇つぶしになるかと思ったが、これじゃあ・・・
「せいや!・・・とりゃあ!・・・」
「・・・・・」
これでは目をつぶってても避けられる。
「アイツ・・・手、ださないね」
「ああ・・・」
「もしかして・・・攻撃を知らないんじゃないか」
「まさか・・・?」
「・・・でもねえ」
「あ〜もう!イライラする・・・涼一、遊んでないでさっさとやっちゃいなさいよ!」
「恵美さん・・・大声出しちゃ・・・」
「・・・そうよ・・・あ!」
――ザッ
「・・・君たち、そこで何をしているんだ?」
「あ・・・いや、その・・・」
「・・・慎也さん・・・ちょっと」
「うん、なんだい・・・あれぇっ?」
「ちょっとー!離してよ!」
「こいつら・・・道場の前でこそこそと・・・」
「あの・・・私たち浅田君の知り合いなんです」
「・・・あ〜!あ〜!知ってるよ、涼一君の連れだね。
あ、いいよ。ここは僕に任せて・・・彼女らはお客様だよ」
「はあ・・・そうですか、それなら・・・」
「やれやれ・・・どうしたんだい君たち」
「まったくもー!馬鹿力で押さえつけて・・・痣になったらどうするのよ!」
「ごめんよ、ここは接客態度がなってなくてね・・・」
「いえ・・・私たちこそ、勝手にすみませんでした」
「いいさ。こんなむさっ苦しい道場に、かわいい女の子ならいつでも大歓迎さ」
「あの・・・浅田君はどうしてここに?」
「ん?ああ・・・そうだね、まずは自己紹介しようか。
僕の名前は「瑞樹 慎也」2−Bだよ、どうぞよろしく・・・
で、こいつが僕の友達の「村上 正弘」・・・」
「・・・・・」
「そして、ここにいるちびっコが僕の妹の「瑞樹 可奈」だよ」
「お兄ちゃん!可奈はちびっコじゃないよ!」
「・・・と言う訳、よかったら君たちの名前も教えてくれないかな」
「あ・・・そうね、あたしは「八木 恵美」」
「・・・「高宮 美紀」です」
「あの・・・私は「北村 由希子」といいます」
「八木さんに、高宮さんに、北村さんね・・・うん覚えた。
いや〜僕としたことが見落としていたよ、学校にこんな可愛い子がいたなんて・・・」
「・・・お兄ちゃん」
「あ・・・と、その話しはいずれのちほど・・・涼一君のことだったね」
「・・・あいつは自分からやって来たんだ、退屈しのぎって言ってな」
「おい・・・正弘、今は僕が・・・」
「おまえに任せると、すぐ脱線しちまうからな・・・
だから俺達は浅田を強制してる訳じゃないぜ」
「そんな・・・浅田君が?」
「涼一さんが・・・信じられません・・・」
「そう言われてもねえ・・・たしかに誘ったのは僕だけど・・・」
「へえ〜、良かったじゃない」
「・・・!」
「・・・恵美!」
「恵美さん!」
「あいつが進んで物事をやるなんて、珍しいことよ?あの人付き合いの悪いやつが・・・
だからあたしは止める気は無いわ。むしろ・・・応援する」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ほら〜、涼一!遊んでないでさっさとぶっ飛ばしちゃえー!」
「・・・!」
今、恵美の声が聞こえた。
「・・・・・」
声の方向を向くと、恵美と高宮と北村がそこにいた。
「あ・・・ばか、涼一後ろ・・・」
「隙あり!」
「・・・・・」
――・・・バタッ
「・・・何してるんだ」
「何って・・・応援よ、オーエン」
「・・・・・」
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