『ビシッ!・・・ガガッ・・ガッガ・・・』
「・・・アタシ帰るね」
「ん?ああ・・そう、じゃ〜ね〜」
僕は彼女の方は見ないで返事をした。
『K.O!・・・YOU LOSE』
(じゃあ・・・僕も帰りますか)
筐体を後にし、僕はゲーセンを出た。外はすっかり暗くなっている。
「ふぅ・・・なんか上手くいかないな〜」
さっき浅田に関わって、また女の子にみっともない所を見せてしまった。
明日になればこの噂は広まるだろう。
(あいつは・・・一体何者なんだ・・・?)
そう思った時だった。
――ドンッ!
「いってーな・・・おい、オマエ!」
人と肩がぶつかってしまった。
「はい、僕ですか?」
見てみるとガラの悪そうなヤンキーだ。
「いてて・・・こりゃ重傷だ、慰謝料払ってくんねーかな」
「そーだそーだ、払えやニーチャン」
「ちょっと・・・勘弁して下さいよ」
数えると五人はいた。
「おい・・・そこの路地裏に連れてこーぜ」
「お、そーだな」
「ちょっと・・・暴力は・・・」
「ボーリョク?なーに、話し合いさ」
そう言われて路地裏に連れ込まれた。
「ちょっと、サイフ出してくれりゃいいーんだよ」
「いやあ・・・ちょっと今日はイヤなこと続きだったんで・・・」
「だれもオメーの都合なんてきーてねえんだよ!さっさと出せ!」
「まいったな・・・」
――ビシ!ガスッ!バギ!・・・
「だから言ったのに・・・」
ヤンキー達は地面にうずくまっていた。
「うう・・・」
「つ・・・つええ」
そいつらを放って置いて、路地裏を出た時だった。
「あれ?正弘じゃないか」
「慎也・・・何やってんだ」
「ちょっとね・・・ナンパされちゃって」
そう言って路地裏を指差した。
「ああ・・・馬鹿なヤツラだ、慎也にケンカ売るなんて」
「村上サン・・・知り合いですか?」
「ん?こいつは俺が通っている道場の息子、「瑞樹 慎也」だ」
「ああ!あの・・・」
「おいおい・・・正弘、一体僕のことをなんて話してるんだ?」
「さあね」
すると正弘は両手を軽くすくめた。
「村上サンに聞きましたよ!十五歳で師範代になった天才って」
「その話しはよしてくれ・・・なりたくてなった訳じゃない。
大体・・・その天才と互角に闘っているのはどこのとなたでしたかね〜、「村上 正弘」君」
「ははっ!それもそうだな・・・」
「・・・まったく」
僕らは一緒に帰ることにした。途中で正弘の連れと別れ、二人きりになった。
「なあ・・・道場には戻らないのか?師範が言ってたぞ」
「べっつに〜、もう興味ないしね。もっと学生生活をエンジョイしたいんだよ」
「また・・女の尻追っかけまわしてんのか」
「失礼なこと言うな・・・僕は彼女らとお友達になりたいだけだよ」
「だけどなあ・・・」
「父さんはね、考え方が古いから。今時はやらないよ」
「・・・継ぐ気はないのか?」
「全然ないね!だったら正弘にあげちゃってもいいよ、あんなボロ道場」
「・・・本気か?」
「ああ」
「・・・・・」
「・・・やれやれ、でもこの頃変な奴とあってね〜。そいつのせいで色々上手く行かないんだよ」
「ほう・・・そういや俺も最近妙な男と会ったぞ」
「正弘も?」
「ああ・・・実はそいつにケンカを吹っ掛けたんだ」
「好きだね〜」
「だが・・・そいつはまったく手を出さなかった」
「出さなかった?正弘が相手だから、出せなかったんじゃないの?」
「いや違う・・・そいつは俺の放つ蹴りを全て、ことごとくかわしやがった」
「へえ〜、結構やるねそいつ・・・で?」
「俺は、最後にフェイントを混ぜた踵落しを出した」
「あっちゃ〜、相手も可哀相に・・・で、どうなったの?」
「それもかわされた・・・しかも紙一重で」
「うそだろ!マグレで避けたんじゃ・・・」
「いや・・・俺はずっと相手の目を見ていたが、そんなんじゃない。まるで当然の如くかわしたんだ」
「・・・・・」
「そこで俺は攻撃を止めた、ケンカはやめて・・・これからしばらく様子を見ることにしたんだ」
「ふ〜ん・・・正弘にそこまで言わせるなんてねぇ・・・」
「ああ・・・まったく大した奴だよ、あの浅田って奴は」
「・・・なんだって!!」
「なんだよ。急に立ち止まって・・・」
「正弘・・・浅田って・・・2−Dの「浅田 涼一」か!?」
「あ?・・・ああ、たしかそう言ってたな」
「そんな・・・あいつ格闘技でもやってるのか・・・?」
「おい、慎也・・・どうしたんだよ。おまえ・・・浅田と知り合いか?」
「ん・・・まあね、さっき言った変な奴って・・・そいつなんだよ」
「ほう・・・奇遇だな」
「最初にさ・・・女の子達の間から浅田のことを聞くようになった」
「・・・は?」
「結構イイ男らしくてね・・・僕とどっちがいいか、気になったから会いに行ったんだ」
「おまえなあ・・・」
「まあ、聞けって・・・それでさあ、会ったわけだよ浅田に」
「・・・で?」
「ゼーンゼン!・・・色々話し掛けてやったのに、ことごとく無視!」
「ははは・・・なるほど」
「・・・で、その日は何もなく終わったんだ。無視されただけで」
「それだけか?」
「それがまだ・・・実は、今日体育館で偶然会ってね」
「・・・・・」
「女の子達とバスケしてたら、浅田が通りかかってね。バスケでもやらないかって誘ったんだよ」
「無視されたろ?」
「そう・・・せっかく、女の子達に浅田との差を見せようと思ってね。言葉で引き止めたんだ」
「・・・それで?」
「ボールを渡してやったんだ・・・そしたらアイツ、向こうを向いてボールを放り投げた」
「・・・・・」
「そしたら、なんと!アイツのボールが遠くのゴールリンクに入ったわけよ」
「ほんとか?」
「ああ・・・ウソじゃない。それだから・・・
そばにいた女の子達がみんな、キャーキャー言っちゃって・・・まったく」
「そうか・・・大変だったな」
「それだけじゃない!・・・今日の帰り、ついさっきだけど」
「・・・まだあるのか?」
「ああ・・・僕は女の子を連れて、ゲーセンでクレーンゲームをしようとしてた」
「おまえも好きだなあ・・・」
「そしたら!またまた浅田が通りかかった」
「ほんとかよ・・・すごい偶然だな」
「ああ・・・もう、運命としか言いようがないね」
「・・・で?」
「以外にもアイツは女の子を連れていた!」
「は・・・?浅田は女にモテんだろ、別に以外じゃないだろ」
「いや!アイツの性格からしてありえない!あの人付き合いが悪い奴が女の子とだなんて・・・」
「・・・まあ、それはいいから。で、どうなったんだよ?」
「ん?そうだな・・・それでだ、クレーンゲームで勝負した」
「・・・負けたのか」
「ああ・・・僕は一発で一つ取ったんだけど、アイツは一発で三つ取りやがった」
「・・・災難だな」
「おかげで、女の子は愛想つかして・・・明日になれば僕の好感度はかなりダウンだよ」
「はははははっ!・・・」
「笑い事じゃないぞ!」
「わりいわりい・・・しかし、浅田って・・・一体どんな奴なんだ?」
「さーね・・・今の所、隙はまったく無いね」
「ふん・・・明日から探ってみるか?」
「そうだね・・・僕もやるよ、このままじゃ女の子達がどんどん遠ざかって行く」
「とりあえず接近してみるか・・・だけどなあ・・・」
「う〜ん・・・アイツ、人付き合い悪いからな・・・とりあえず陰からこっそりと・・・」
「俺らはスパイか?」
「いや、探偵だよワトソン君」
「とにかく・・・明日になってからだな、学校で落ち合おう」
「うん、じゃあ教室で待ってるよ・・・サボったりするなよ」
「・・・努力する」
「じゃあ、また明日な」
「ああ」
――バフッ
「ふう・・・」
ベッドに転がってため息を吐いた。
(なぜだ・・・この頃、本当に人と会う)
高校に入っての最初の一年は、別に大した目立つことも無かった。
二年生になって、しかも最近になって色々面倒なことが増えたのだと思う。
(・・・たしかに、俺はつまらない人生を送って来たと思った。・・・だが)
女子生徒に頻繁に話し掛けられる様になった。
あいつらは、ちょっと気を許すとずけずけと人の領域に入り込んでくる。
男子生徒の方はそうでもないが、あの瑞樹と村上という奴は注意した方がいいだろう。
きっとまた衝突してくるに違いない。
(退屈な日常よりはマシなのか・・・?)
ふと、そう思った。
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