第十四話 「嫌な予感」

(なんか・・・物凄く嫌な予感がする)

  俺は校門に向かいつつ、そう考えた。

(やっぱり裏門から帰ろうかな・・・)

  大体向こうが勝手に待ってるだけだ、俺が行かなくても別にいいだろう。
 しかも三人揃って校門前を指定してきて・・・恵美から始まって、高宮・・・北村・・・

(・・・そうだ恵美だ)

  あいつ・・・もし俺がすっぽかしたら、家で何言われるかわかったもんじゃない。
 恵美がいなければさっさと裏門から帰るものの・・・
「・・・はあ」
  考えるのを止め、どうにかなるだろうと思いつつ校門に向かった。

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

  見ると三人が揃って顔を見て立っている。

(あいつら知り合いか・・・)

「・・・!」「・・・!」「・・・!」

  すると全員こちらに気づいたようだ。

「涼一ィ!」「浅田君!」「涼一さん!」

  一斉に俺を呼んだ。

「・・・・・」「・・・・・」「・・・・・」

  そしてまた無言でお互いを見る。

(なんだよ・・・一体)

「ちょっと待ってよ!」
  最初に口火を切ったのは恵美だった。
「アンタ達が待ってたのって涼一なの!?」
「・・・ええ」
「は・・・はい」
「それより恵美・・・浅田君がお世話になっている家って、恵美の家なの?」
「あ・・・まあ、そうかな」
「えっ!涼一さんと恵美さんって一緒に住んでるんですか?」
「まあ・・・昔、色々あって・・・一緒に住んでるけど」
「そうなんですか・・・」
「だからといって別に何もないよ!兄妹みたいなもんよ、キョーダイ!」
「・・・・・」
「そうだ!・・・美紀」
「え?」
「涼一に弁当を作ってあげてるのって・・・もしかしてアンタ?」
「うん・・・まあね」
「や〜っぱり」
「美紀さん、お弁当作ってあげてるんですか・・・」
「たしか・・・美紀は涼一と一緒のクラスだったね、そっか〜」
「・・・でも、今日は」
「知ってるわよ、あの冷たい奴に無視されたんでしょ」
「えっ!なんで」
「たまたま昼休みに会ったから・・・
 大丈夫!アイツ人付き合い悪いけど、美紀が嫌いじゃないと思うから」
「・・・うん」
「それに、お弁当作ってくれるなら家も食費助かるからさ」
「くすっ・・・そう」
「そういえば・・・由希子」
「あ・・・はい」
「あなたは、どうやってアイツと知り合ったの?」
「最初は・・・町で不良にからまれていたのを助けてもらって・・」
「えぇ!?そうなの!」
「浅田君が!」
「次に会ったのが図書室で・・・本を片づけるのを手伝ってもらいました」
「アイツが・・・あれ?涼一!どこに行くのよ!」
「いや・・・邪魔かと思って・・・」
「邪魔じゃなくて・・・アンタが主役みたいなモンよ!ちょっとこっち来て!」
「・・・・・」
「ねえ・・・由希子が言ったこと本当?」
「・・・ああ、たまたまね」
「たまたま?・・・まあいいわ、本当らしいね。この男が・・・?」
「・・・・・」
「で・・・どうするのよ、この事態?」
「・・・さあ」
「さあ・・・って、アンタ・・・」
「いいのよ・・・あたし勝手に待ってただけだから」
「あの・・・私もです、ですから・・・」
「でも、せっかく待っててくれたんだし・・・
 そうだ!だったらみんな一緒に帰ればいいじゃない、簡単なことよ」
「え・・・でも」
「いいんですか?」
「別に、あたしはかまわないわよ。ねえ・・涼一、いいでしょ?」
「・・・仕方ない」
「仕方ないはないでしょ!大体、女の子三人と一緒に帰れるんだから少しは嬉しがりなさい!」
「・・・くすくす」
「仲・・・良いんですね」
「え?まあ、長い付き合いだから・・・さあ!そうと決まればさっさと行きましょ」
「・・・うん」
「はい!」
「・・・・・」

  こうして俺達は、一緒に帰ることになってしまった。

「・・でさ〜、こいつってこんな奴でしょ。遠足とかでグループ作るといっつも一人だったのよ」
「・・・へえ」
「そうなんですか・・・」
「何人か寄ってくる子はいたくせに・・・自分で追い返すんだから」
「・・・・・」
  恵美がこっちを見たが、俺は何も言わなかった。
「だからね・・・あなたたちがこの男にここまで近づけたなんてスゴイことよ、自慢してもいいわ」
「ふふ、そうね」
「はい・・」
  そんな会話があって、商店街に入った時だった。

「慎也く〜ん、あのヌイグルミ取って〜」
「ははは、いいよ・・・あれ?」
「・・・・・」

(今日はなんて日だ・・・)

「涼一君・・・こんな所で会うなんて奇遇だね」
「・・・まったくだ」
「涼一・・・知り合い?」
「・・・まあな」
「あれ?君が女の子連れなんて珍しい・・・お・・おい、待ってくれよ」
「・・・・・」
「こんな所で会うのも何かの縁だ、どうだい?このゲーセンのUFOキャッチャーで勝負しないか?」
「・・・いや」
「面白そうじゃない、涼一。やんなさいよ」
「・・・・・」
「ほら・・・美紀も由希子もこっち来なさいよ。
 こいつがゲームセンターで遊ぶなんてめったに見られないわよ」
「あ・・・じゃあ」
「・・・はい」
「じゃあ・・・準備はいいかい?先に人形を取った方が勝ちだ。
 何回やってもいいけど・・・あんまりお金を使いすぎる前に、ギブアップした方がいいよ」
「・・・・・」

――チャリン

  俺は、渋々百円玉を投入した。

「よしっ・・この位置で・・・・ここだ!」

――ウイィーン・・・

「はは!・・・どうだ、一発で取れたよ!」
「慎也君すご〜い!」
「どうだい・・・涼一君・・え!」

――ボテボテボテ・・・

「涼一、やるじゃないの!」
「すごい・・・3つも」
「お上手ですねー」

――ガチャ

「でも・・・俺いらないしなあ・・・」
「じゃあ・・・あたし達にちょうだいよ!」
「・・・いいよ」
「やった!はい、これ。あなた達の」
「え?いいの」
「いいんですか?」
「いいって、いいって。ねえ、涼一?」
「・・・ああ」
「ありがとう・・・大切にするね」
「ど・・・どうも、私も・・・」
  そう言って3人は、それぞれ好きな人形を貰った。
「やるじゃないか・・・涼一君。中でもうちょっと遊ばないかい?」
「いや・・・いい」
「そうか。まあ・・・テスト前だし、無理には誘わないよ」
「・・・・・」
  そうして俺達はゲームセンターを後にした。

「・・・じゃあ、あたし家こっちだから」
「あ・・・美紀、そういえばそうだったわね。由希子は?」
「私も・・・こっちです」
「そう・・じゃあ、ここでお別れね」
「じゃあね、浅田君」
「あの・・・また・・」
  そう言って二人は向こうに行った。
「じゃ、あたし達も行きますか。我が家に」
「・・・ああ」
  俺達も家に向かった。
「ねえ・・・涼一」
「・・・ん」
「アンタさあ・・・いや・・・やっぱ、いいや」
「?」


「・・・北村さん」
「はい?」
「あなた、浅田君のこと好きなの?」
「え!いや・・・そんな・・・」
「隠さなくていいわ・・・あたしも、浅田君のこと好きだし」
「・・・美紀さん」
「あたしはね・・・たまたま彼と一緒のクラスで、隣りの席なだけで別に・・・なんでもないのよ」
「・・・でも、お弁当は」
「ああ・・・別にあれは、あたしが勝手に持って行って強引に食べさせただけ」
「それでも・・・」
「・・・あなたは彼に助けられたんでしょ?」
「いえ・・・涼一さんは、たまたまだって言ってましたし・・・偶然です」
「偶然ね・・・こう考えられないかしら?「運命」・・て」
「運命・・・ですか?」
「そ、だってその方がロマッチックじゃない」
「ふふ・・そうですね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「浅田君がどうして恵美の家に住んでるか知ってる?」
「いえ・・・」
「彼に聞いたんだけど・・・いい、ここだけの話しよ。・・・あなただから話すんだから」
「・・はい」
「彼・・・十年前に、ご両親を事故で亡くしたんですって」
「!・・そう・・・だったんですか」
「・・・それで、それで浅田君のお父さんの友人・・・
 多分、恵美のお父さんに・・・引き取られたんですって」
「涼一さんは・・・昔そんなことが・・・」
「それからずっと・・・お世話になってるんですって」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「彼女さあ・・・恵美のこと」
「・・・はい」
「彼女も浅田君のこと・・・好きなんだと思う・・・兄妹とか・・・そういうのじゃなくて」
「それなら・・・恵美さんは・・・」
「でもね・・・」
「?」
「あれだけ近くにいたら・・・逆につらいと思う・・・」
「・・・・・」
「十年近く一緒に暮らしてて・・・もし・・その関係が壊れたら・・・
 そう思ってるんじゃないかな・・・」
「・・・そうですね」


「たっだいまー!」
「・・・ただいま」
「おっ、恵美・・・ん?涼一も。二人揃ってお帰りか」
「えっへへ〜・・・これ」
「ん・・・ヌイグルミ?どうしたんだ、それ」
「聞いてよお父さん、涼一が・・・クレーンゲームで取ってくれたの」
「涼一君が?・・・へぇー、たいしたもんだ」
「・・・・・」


「・・・あたし達も、一緒でしょ。ほら・・・今日みんなそろって人形もらったし」
「ええ・・・」
「だからさ、あたし達にもチャンスがあるってことよ!」
「はい・・・そうですね!」
「お互いがんばりましょ!・・・彼に・・・振り向いてもらうために」
「・・・はい!」