第十三話 「帰り際の約束事」

――・・ン・・コーン

  今日の授業が終わった。

(たしか・・・恵美と帰るんだったな)

  俺は鞄に物を入れつつ考えた。

(・・・そうだ。図書室から借りた本、昼で読み終わったんだ・・・ついでに返してくるか)

  そう思って席から立った時だった。
「・・・浅田君」
「?」
  高宮が話し掛けてきた。
「ねえ・・・どうして屋上に来なかったの?」
「・・・・・」
「急に教室から出てって・・・あたし、急いで屋上に行ったけどいなくて・・・」
「・・・しばらく、屋上に行くのは止めた」
「えっ、どうして?」
「この頃人が多すぎる・・・それだけだ」
「そんな・・・言ってくれれば」

(・・・言ったらどうしたというんだ?)

「あたしね、てっきり浅田君に嫌われちゃったのかなあ・・・って思って」
「・・・・・」
「ねえ・・・どこ行ってたの?」
「・・・さあ」
「・・・・・」
「・・・・・」
  何も言わなくなったので帰ろうとした時。
「あ・・あのさ、帰りはどうかな?」
「・・・・・」
「あたし・・・校門で待ってるから!」
「・・・・・」
  そう言って高宮は教室を出て行った。
「・・・はぁ」
  少しため息を漏らしつつ、俺は図書室に向かった。

(なんでこうなるのかな・・・)
  
  そう思って図書室の前に来た時だった。
「え・・・と・・」
  扉の前で女子生徒が突っ立っている。
「んと・・・」

(こいつは・・・)

  どうやら、両手に抱えたダンボールのせいで扉が開けられないらしい。
「・・・・・」

――ガラッ!

  邪魔なので俺は後ろから扉を開けてやった。
「あ・・・すみません・・・」
  女子生徒がこっちを振り向いた。
「あ!・・涼一さん」
「・・・中」
「え!?・・ああ、そうですね」  
  そう言って、図書室に入って行った。俺も中に入る。
「これ・・・荷物」
「あ・・北村さん、ありがと。そこ置いといて」
  北村はダンボールを置いた後、またこっちに来た。
「あの・・・涼一さん、たびたびすみません・・・」
「・・・いいさ。それより・・・この本返しに来たんだけど」
  俺は本をカウンターの上に出した。
「・・あの、すみません。私・・・今日当番じゃないんです」
「じゃあ・・・なぜここに?」
「いや・・その・・・お手伝いで」
「?」
  俺は他の係の奴に本を返した。


「あ・・・涼一さん」
「・・・?」
  私は帰ろうとする涼一さんを呼び止めた。
「あの・・・これから・・・お帰りですか?」
「・・ああ」
「あの・・・もし・・良かったら・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
  それきり、うつむいてしまった。
「・・・何?」
「もし・・・良かったらでいいんですけど・・・」
「だから?」
「あの・・一緒に帰らせていただけませんか!」
「・・・・・」
「嫌・・・ならいいんです・・・はい」
「・・・そうじゃないんだけど」
「なら・・・私・・校門前で待ってますから」
  そう言って私は図書室を逃げるように出て行った。

(・・・言っちゃった・・・どうしよう)

  多分、私の顔は真っ赤になっているだろう。

――カンカンカンカン・・・

「・・・はあ」
  階段の途中で足を止める。

(どうしよう・・・)

  図書室には、あの日からたびたび足を運んでいた。
 休み時間になればすぐに来て、彼がいないかどうか探していたのだ。
 そして、ついに先ほど会ったのだった。

(でも・・・)

  さっきのは、やっぱり早まりすぎたんじゃないかと思った。
 会ったのが昨日今日で、しかもあまり親しくないのに・・・

(涼一さん・・・どう思ったかな?・・・迷惑だったかしら)

  とりあえず校門に行こうと思った。彼が来たら、もういちど聞けばいい。

「・・おい、待てよー」
「じゃあねー、バイバイ」

  校門にたどり着くと見知った顔の人がいた。
「あら・・・恵美さん」
「由希子じゃない、今帰り?」
「ええ・・・まあ」
  恵美さんの隣りにもう一人知らない人がいた。
「ああ・・・この子「高宮  美紀」さん。前のクラスで一緒だったの」
「どうも、こんにちは」
「あ・・・どうも」

(この人・・・どこかで・・・?)

「で・・・この子が「北村  由希子」さん。前にクラス役員の集まりで色々お世話になったの」
「いえ・・・そんな」
  あれは去年の体育祭の時だったか、私は役員に選ばれて学年ごとに集まった時に恵美さんと一緒になった。
 一年生の時だったし、わからないこともたくさんあって、互いに協力していくうちに仲良くなった。
 たまに会う時なんかは、よくおしゃべりなんかしたりする。
「あの・・・恵美さんはここで何を?」
「あたし?あたしはちょっと人をね・・・」
「そうですか。私と一緒ですね」
「あら、あなたもなの?奇遇ねぇ〜・・・実はこの子もなのよ」
  そう言って、高宮さんに手を向ける。
「ここって、待ち合わせで一番わかりやすいから」
「そうね」
「はい」
  
(涼一さんが来たら・・・なんて言おう・・・)

「ねえ美紀、アンタが待ってる人ってどんな人?」
「そうねえ・・・男の人なんだけど・・・ほとんど相手にされないって感じかな・・・」
「へえ〜、由希子は」
「あの・・・私も・・・男の人を・・・」
「由希子やるじゃない!それって彼氏?」
「ち・・違います、そんなんじゃ・・・」
「恵美、あなたは?」 
「あたし?あたしも男なんだけどね・・・まあ、家族みたいなもんね」
「お兄さんか・・・弟さんですか?」
「いや兄妹って訳でもないんだけど・・・まあ、来たら紹介するわ」
「?」
「?」
「でさ、美紀。アンタが待つ男ってどんな人?」
「さっきも言ったけど・・・あたしが勝手に待ってるだけで・・・向こうがどう思ってるか・・・」
「ふ〜ん」
「・・・それに、人付き合いが悪くて・・・あたしのこと迷惑だと思ってるかもしれない」
「へ〜、冷たい奴ね。あたしが待ってる男もそうだけど、
 そいつったら無口でねー。何考えてるかわかんないの」
「あの・・・私が待ってる人もそんな感じですけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」