第十二話 「涼一と恵美」

「あら・・・?」
  部室からスケジュール表を取りに行った帰りに、見覚えのある奴を見かけた。

(・・・涼一じゃないの)

  あいつは木陰で寝っ転がっている、あたしは近づいた。
「何してんの、アンタ」
「今度は・・・恵美か・・・」
  すると涼一は、めんどくさそうにこっちを見た。
「今度は・・・ってどーゆーイミよ。それよりどうしたのよ、こんな所で」
「別に・・・昼飯食ってただけだ」
「・・・ふーん」
  あたしは涼一の隣りに座った。
「おまえこそ・・・なんでこんな所に?」
「あたし?あたしは部室に用があってね、そしたら帰りにアンタを見っけたわけ」
「なるほど・・・」
  
――カサカサカサ・・・

  ・・・風で葉っぱが揺れる。空が晴れてて心地よい天気だ。
「聞いたわよ〜、アンタ近頃モテてるらしいじゃない?」
「まあ・・・確かに変な奴等には付きまとわれるな・・・」
「へえ、どんな?」
「女連れのおかしな奴とか・・・変な不良とか・・・わざわざ弁当を作ってくる女とか・・・」
「・・・ちょっと待ってよ!弁当!?それ本当?」
「ああ」
「ウソ・・・それっていつから?」
「昨日」
「へぇ〜・・・あれ?じゃあ今日は?」
「無視した」
「えっ!なんで?」
「いつもは屋上に行くんだが・・・この頃なぜか人が多くて、俺は騒々しい所は嫌いだからな」
「・・・・・」
「だから・・・誰にも会わないようさっさと教室を出た」
「・・・はぁ〜あ、なんでかね〜」
「・・・?」
「なんでこんな人付き合いの悪い奴がモテるのかね〜」
「・・・知るか」

(まあ・・・たしかにカッコイイけど・・・)

「涼一さあ・・・覚えてる?中学の時」
「・・・・・」
「バレンタインの時に・・・アンタ何個かもらったよね、チョコ」
「・・・ああ」
「そしたら家であたしに向かって、ポリポリ食べながら言ったじゃない。「食うか?」・・・って」
「・・・・・」
「普通、貰ったバレンタインチョコを他人にあげないわよ?・・・しかも女の子に」
「・・・でも、おまえ食ったろ?」
「ま〜ね、美味しかったし」
「・・・・・」
「とにかく、せっかくモテてるのにさあ・・・そんなに冷たくしていいわけ?もったいないと思わないの?」
「・・・別に」
「アンタさあ・・・女の子に興味ないの?年頃の男の子のくせに」
「おまえには関係無いだろ・・・」

(・・・関係ないわけ・・・無いじゃない)

「・・・ま。女の子というより、他人とあんまり話したがらないよね〜。涼一は」
「・・・・・」
「この学校で・・・アンタとまともに会話してるのって、あたしくらいじゃない」
「・・・まあな」
「付き合い長いもんね〜、かれこれ十年くらいになるんじゃない?」
「ああ・・・そうだな」
「しかも一緒に住んでて・・・こんなこと、うちの女の子たちに言ったら大騒ぎよ」
「・・・・・」
「あたし達って・・・なんなのかなあ、家族?幼なじみ?それとも・・・」
「・・・兄妹みたいなもんだろ」
「あ・・・そーいやそうね、オ・ニ・イ・チャン」
「気持ち悪いからやめろ・・・馬鹿妹」
「はいはい、すいませんね」
「・・・・・」

(・・・やっばりね)

「さて・・と、そろそろ行くわ」
「ん・・・そうか、じゃあ俺も」
  あたし達はそろって立ち上がった。
「・・・あ、そうだ。たまには一緒に帰らない?」
「いいけど・・・おまえ部活は?」
「テスト前だからお休み〜」
「・・・なるほど」
「じゃ!校門でね」
  そう言って、あたしは涼一と別れた。

(妹・・・か)

  少し走り気味に校舎に戻った。


  教室に戻ると、隣りの席にはすでに高宮が戻っていた。
「・・・ねえ」
  何か言おうとしたが。
「・・・・・」
  結局何もしゃべらなかった。

(・・・なんだ一体?)

――キーン・・コーン

  俺は席に着いた。
「はい・・・じゃあ91ページの・・・」
  教師が授業を始めた。