第十一話 「瑞樹再び」

 俺は少し考えていた。

(どうするかな・・・昼休み屋上行こうかな・・・)

  この頃何かおかしい、次々といろんな人間が現れる。
 今日も多分、隣りの高宮が弁当を作ってきたんだろう。

(だけどなあ・・・)

  弁当は良い、だが正直屋上には行きたくない。教室なんてもってのほかだ。

(決めた・・・さっさと購買に行って人のいない所を探そう)

  その時、四時間目終了のチャイムがなった。
「・・・・・」
  すかさず俺は教室を出た、誰にも話し掛けられる前に。

(そうだな、違う道を通っていくのもいいだろう)

  俺は少し遠回りに、体育館の中を突っ切る道を選んだ。

――バスッ・・バスッ

  中でバスケをしている奴がいた、三人の女を連れてフリースローをしている。

――ヒュッ

  そいつがボールを放ると、ゴールに向かって弧を描き・・・

――パスッ

  入った。



「スゴ〜い、慎也クン!」
「ははは、まあね」
  これでも僕は、バスケ経験者だ。中学の頃に結構やっていたので、バスケにも自信がある。
「・・・ん?」

(向こうで歩いているのは・・・浅田じゃないか、こんな所で会うとは)

  あいつはスタスタと体育館を横切ろうとしていた。

(そうだ!)

「お〜い!涼一君じゃないか。ちょっと待てよ」
「・・・・・」
  向こうは立ち止まってこっちを見た。けど、相変わらず何も言おうとはしない。
 僕はあいつに近づいて行った。
「えっ!慎也クン、彼と知り合いなの?」
「うん・・ま〜ね」
  その辺の所はあまり言わず、浅田の近くに立った。
「やあ、久しぶり」
「・・・・・」

(・・・相変わらずクールなヤツ)

「・・・ほら、彼よ」
「えー・・・そうなの?」
  女の子達も浅田に反応している。
「僕のこと覚えているだろ?」
「・・・瑞樹、だったな」
  向こうもこっちを覚えている。それならと思い、さっき考えたセリフを言った。
「こんな所で会ったのもなんだし・・・どうだい?バスケでもしないか」
「・・・断る」
  やはり断った、ならこっちの思うつぼだ。
「え〜っ、ザンネンだな〜」
「・・・・・」
  浅田はそのまま行こうとする。
「・・・バスケに自信が無いのかあ、ならしょうがないや」
「・・・・・」
「ごめんね君タチ、どうやら彼はスポーツが苦手らしい」
「え〜そんなあ」
「つまんな〜い」
「・・・・・」
  だいぶ向こうに行った、僕は浅田に聞こえるようにこう言った。
「しょうがないさ・・・彼なんてそんなもんだよ」
「・・・」

(お!止まってこっちを向いたぞ、怒ったかな?)  

「やる気になったかい?ほらっ!」
  僕は浅田に向かってボールを投げた。
「・・・・・」
  向こうはそれを受け取っても何も言わない。
「どうしたんだい、やらないの?」
「・・・・・」
  
――ヒュッ!

  すると浅田は向き直りつつボールを投げた。
「ありゃりゃ、どこ投げてんの?」
  ボールはそのまま僕の頭上を通り越し、体育館の向こうの・・・

――パスッ

「あ・・・!!」
「えっ!?」
「うそお!?」
  向こうの・・・一番遠いゴールリンクに入った。

(そんな・・・信じられない)

「あ・・・」
  向き直ると浅田はもう消えていた。
「ちょっと見たあ!今の」
「うんうん!彼が後ろ向きでポーンと」
「・・・・・」
  あいつの位置と、あのゴールリンクはちょうど体育館の対角線上だ。
 フリースローの何倍もの距離がある。
「いや・・・さ、きっとマグレだよ」
「でもー・・・」
「・・・ねえ」
「・・・・・」
  
(マグレだ・・・きっとそうに違いない)

  僕は転がったボールを見つつ、彼女たちにジョークを言うのも忘れていた。


(まったく・・・なんとかしてくれ)

  パンを買いつつ、俺は誰にともなしに嘆いていた。

(今日といい・・・昨日といい・・・)

  さっきのあれ・・・別に無視しても良かったが、なんとなく気に触った。
 だからあの一球で黙らせてやった。もう話し掛けてこないだろう。
「さてと・・・」
  俺はどこで食おうか考えた。屋上はだめだし、教室もいやだ。体育館はもっての他だし・・・

(そうだな・・・外に出よう)

  玄関口に足を向けた。