第九話 「屋上での私闘」

「・・・つーワケなんスよ!」  
「あのスカシヤロー・・・今度会ったらただじゃおかねー!」
「・・・・・」

(たまに学校に来たらこれか・・・)

  俺は今日の三時間目くらいに学校に来た。
 だが・・・授業に出る気はなく、ずっと屋上の給水塔の陰で昼寝をしていた。
「ヤツ・・・たしかこのガッコなんスよ、いづれ会うと思うんで・・・」
「・・・・・」
「村上サン・・・そんときは・・」
「・・・オイ」
「はい?」
  俺は上体を起こした。
「やられたのはてめえらだろ?」
「あ・・・はい」
「だったら、てめえらだけでなんとかしろ」
「でも・・」

(・・・たく、つまんねえぜ)

  俺はまた横になった。

――ガヤガヤ・・・

「・・・?」
  休み時間に入ったせいか人が増えてきやがった。

(・・・そろそろどっか行くかな)

  そう思って俺は立ち上がった。
「あっ・・待ってくださいよ村上サン」
「・・・・・」

――ガチャ!

  屋上の扉を開けようとしたら向こうから開きやがった。
「・・・・・」
「・・・・・」
  中のヤツとしばし睨み合う・・・
「・・どうしたんスか?村上サン・・・あっ!?」
「こいつ・・・さっき俺らが言ってたヤツですよ!」
「・・・・・」

(なるほど・・・こいつか)

  一見した所。スラリとした背に少し伸ばしたた髪、傷の無い整った顔
 ・・・ 喧嘩が強そうには見えない。

(だが、こいつの目・・・)

  俺は今までいろんな奴を相手にしてきた、だが・・・こんな目の奴は始めてだ。

「・・・おい」
「ん?・・ああ・・まあ入れや」
「・・・?」
  そいつは不信げにこっちを見ながら屋上に入ってきた。
「どうします・・・?」
「俺ら二人でボコリますか?」
「まあ、まて・・・」
  ざっと屋上を見渡すと結構人が多い。
「・・・よし、おまえら」
「はい」
「何です?」
「俺ら三人と、アイツ以外の奴等を・・・全員屋上から追い出せ」
「え!?」
「・・・でも」
「・・いいからやれ」
「は・・はい」
  そしてあいつらは屋上にいた奴等を締め出しにかかった。
「・・え〜なんでよ?」
「いいから・・・行け!」

(さてと・・・)

  全員を追い出し、屋上には俺ら四人だけになった。
「・・・・・」
  ヤツはベンチに座って本を読んでいた。
「なあ・・アンタ」
「・・・・・」
  話しかけても反応は無い。
「おい!テメエ、シカトしてんじゃねーぞ!」
「なんか言えやこらあ!」
「・・・おまえらは引っ込んでろ」
「あ・・すみません」
  そう言って二人を黙らせた。
「アンタ・・・この二人に見覚えはないか?」
  するとヤツはこちらに目線を向けた。
「・・・ああ」
「思い出したようだな・・・その時は世話になったようで」
「別に・・・」
  そしてまた本に戻る。
「テメ・・・!」
  また出てくる所を手で制した。
「アンタ・・・喧嘩の方はどうだい?」
「・・・・・」
「ハンッ!、無視かい・・・なら」

――ヒュッ!

「・・・・・」  
  俺は座っているヤツに後ろ回し蹴り放った、踵がヤツのこめかみ寸前で止まっている。
「出た!村上サンの回し蹴り!」
「見ろよ、あいつビビってるぜ!」
  ヤツはぴくりとも動かなかった。
「どうした・・・なぜ避けなかった?それとも反応できなかったか」
「・・・・・」
  するとヤツは本を閉じた。
「・・・当たらなかったからだ」
「なるほどね・・・」
  俺は体勢を戻した。
「村上サン・・・」
「黙ってろ!」
「・・・・・」
「・・・おまえらは扉を見張れ」
「・・はい」
「俺の名は『村上  正弘』、2−Gだ・・・良かったら名前を聞かせてくれないか?」
「・・・浅田  涼一、2−D」
「浅田サンね・・・どうだい?いっちょやらないか」
「・・断る」
「まあ・・・そう連れなさんな!」

――シャッ

  今度は浅田のどてっ腹に前蹴りを放った、今度は止める気は無い。

――ガンッ!

「・・・!?」
  俺の蹴りはベンチの背もたれに当たった。

(浅田は・・・!)

  探すと、奴はすぐ後ろに立っていた。

「ハハハ!・・・おもしろい」
  

――タッタッタ・・・

「まったく・・・あの先生ったら人使い荒いんだから!」
  浅田君と一緒に屋上に行こうと思ったら、急に先生にプリント運びをさせられた。
 たまたま目が合ってしまって、運が悪いとしか言いようが無い。

(今日は彼とお弁当なのに!)

  お弁当を胸に抱え、あたしは急いで屋上に向かった。

――カンカンカン・・・

「あら?」
  階段を上り始めると、上からぞろぞろと人が降りてきた。
「・・・ねえ、ちょっと」
  あたしは、そこにいたクラスメートに話し掛けた。
「どうしたの、屋上に行かないの?」
「・・・なんか、不良が来て・・・締め出されたの」
「えぇ!・・じゃあ浅田君は?」
「さあ・・・多分まだ上に・・・」
「そんな・・・じゃあ・・」
  あたしは急いで階段を上った。
「あっ、高宮さん!」

(もしかして・・・不良にからまれているんじゃ・・・)

――ガチャッ!

「・・・おい、だめだ!入ってくるな!」
「ちょっと何してるのよ・・・あ!」
  屋上の向こうで浅田君と男が対峙している。
「だめだ、今立ち入り禁止だ!」
「キャッ!」

――バタン!

  不良に押され、扉を閉められた。
「・・・大丈夫?高宮さん」
「うん・・・でも浅田君が・・・」

(彼・・・ケンカはどうなんだろう・・・怪我しなければいいけど・・・)


「おいおい・・・どうした!避けてばかりじゃ話しにならないぞ!」
「・・・・・」
  俺は次々に繰り出される蹴りを軽くかわしていた。

(しかし・・・どうなってる?この頃よく変な奴等に付きまとわれる・・・)

  避けつつ考えた。

(・・・屋上に行くの・・・やめるかな・・・?)

――シュッ

  今度はローキック・・・

(・・・違う)

「かかったな!」
  蹴り足は止まらず、そのまま踵落としに以降する。

(面倒だな・・・)

――スッ

「・・・・・」
「なに・・!」
  俺は頭をほんの少しずらし、紙一重でかわす。

――ガッ!

  外れた踵が地面に刺さる。
「・・・・・」
「・・・・・」
  目と目が合い、そのまま硬直する。
「やーめた」
  とたんに奴が両手を軽く挙げた。
「・・・・・」
  そのまま奴はスタスタと扉の方に行く。
「ど・・・どうしたんスか?村上サン」
「そうですよ、ずっと押してたじゃないですか!」
「いーんだよ・・・ほれ行くぞ」
「でも・・・」
「じゃあな!浅田」
  そう言って奴はこっちに手を振った。

(やっと終わったか・・・)

  俺はベンチに向かった。