第五話 「噂のアイツ」

  僕は五人の女の子を引き連れて放課後の校舎を歩いていた。
 彼女らはみんな僕の友達。軽快なトークで会話を弾ませていた。
「やだあ、もう慎也君ったらぁ」
「はははは・・・」
  僕は、このフェイスと独自のトークテクニックで日々彼女らを魅了していたのだ。
「いやぁ・・・君たちは本当、何でそんなにかわいいのかなあ。
 この学校の生徒の美的水準が上がったらきみたちのおかげだよ」
「ふふふ・・・もう」
「ははは・・・」
  二年生に進級してからも僕の人気が衰えることは無かった。
 クラスはおろか、学年のあらゆる女の子のピッチと携帯の番号が僕のアドレスにつまっている。
 手帳もプリクラでいっぱいだ。だが・・・
「あっ!浅田君よ」
「えっ、どこどこ」
「ほら・・・あそこ」

(浅田!)

  こいつの名前が女の子達の間からこの頃たまに聞くようになった。
 今も五人中二人があいつを目で追っている、気に入らない・・・
「おいおい・・・僕のことを忘れないでくれよ〜」
「あ・・ごめ〜ん」
  と言っても、彼女らの気は向こうに行っている。
 2−Dの「浅田  涼一」・・・あいつの何がそんなにいいんだ。
「ねえねえ、あいつのどこがいいの?」
  僕は最初に浅田を発見した彼女に聞いてみた。
「そうねえ・・・クールなとこかな」
 
(クール?)

「あとあと、人を寄せ付けない不思議な感じ」
  もう一人が言った、人を寄せ付けない?そんな所のどこがいいんだ・・・よし、決めた。
「あ!そーだ、僕ちょっと用事思い出しちゃった。ごめん、一緒に帰れないや」
「え〜なんで〜」
「帰りゲーセン寄ってくって言ったじゃない〜」
「ごめんごめん・・・今度この埋め合わせするからさ、じゃあねバイバイ!」
「あっ、慎也く〜ん」
  ごめんよ女の子達、僕にはどうしても知らなければならないことがあるんだ。
 浅田は今裏門から出ていった、走れば間に合うだろう。

――タッタッタッ・・・

「・・・いた!」
  あいつは一人で帰っている所らしい、女の子も連れないで寂しい奴だ。
「ねえ、浅田君・・・だよね?」
「・・・・・」
  無言で振り向く、なるほど・・・ルックスはかなり良いほうだ。僕といい勝負かな?
「・・・・・」
  浅田は無言のまま前を向いて歩き出す、人付き合いの悪い奴だ。
「なあ・・・ちょっと待ってくれよ」
  僕は小走りになって浅田の横に並んだ。
「・・・ふ〜ん、なるほど。言ってた通りだ」
  クールで人を寄せ付けない不思議な感じ・・・ぴったりだ。
「・・・・・」
「自己紹介が遅れたね、僕の名前は『瑞樹  慎也』2−Bだよ。どうぞ・・よ・ろ・し・く」
「・・・・・」
「君のことは知ってるよ、彼女らの噂のヒトだからね」
「・・・・・」
「敵情視察・・・てわけでもないけど、なんとなく僕も気になったからね」
「・・・・・」
「あ!気になったからと言ったって、僕はそっち方面の人じゃないからね。
 勘違いしないでくれよ、ははは・・・」
「・・・・・」
  リ・・・リアクションがない。たとえ相手が男だろうが女の子だろうが僕の軽快なトークで
 笑わせられるはずだったのに、なんだこいつは・・・こんな奴はじめてだ。
「・・・何か用か?」
  こいつの最初の言葉がこれだった。
「ん・・・あ・・・いやね、噂のキミがどんな人間なのかな〜って。
 知ってる?女の子に結構人気あるんだよ」
「・・・・・」
  う〜む、クールな奴だ。何を考えているのかさっぱりわからん・・・
「まあね、僕も結構女の子には人気あるほうだからね。
 キミと僕とでどんな違いがあるのかな〜ってね」
「・・・・・」
「なるほど・・・こう見てみるとまるっきり僕と正反対って感じだね」
「・・・・・」
「ねえねえ浅田君、キミってさあ・・・彼女とかいるの?」
「・・・・・」
「いないの?そうだよね、なんかそんな感じしないよね」
「・・・・・」
「あ・・・気悪くした?」
「・・・・・」
  なんて奴だ、この僕がこれだけ話しかけているというのにほとんど反応しないなんて・・・
 どうしてこんな奴が女の子の気を引くんだ?
「いつもさあ・・・そんな感じなの?」
「・・・別に」
  反応したぞ、でも今の『べつに』はどういう意味だ?否定か?肯定か?もうちょっと探ってみるか。
「あのさ・・・」
「しつこいぞ」
「え・・・?」
  急に浅田が立ち止まった、僕もあわてて立ち止まる。そして僕を見て
「もう用はないだろ・・・消えろ」
  そう言って浅田はまた歩き出した、僕はしばらくその場に立ち尽くした。

(な・・・なんだ今のは)

  あいつの目・・・スゴく冷たい感じがした。もしかして・・・怒っていたのかな?
「・・・しょうがない、帰るとするか」
  僕は自分の家へと歩き出した。