第四話 「屋上の出会い」

  私は昨日名前も言えずに行ってしまった『あの人』を探していた。
 せめて一言お礼が言いたいと思ったから。うちの学校なのは間違い無いので校舎中を歩いていた。
 一つ一つ教室を見て確認する。多分同学年かもしくは上の学年だと思う。
 入学したての新入生の制服じゃなかったから。

(・・・でも)

  この学校はすごく広くて、一つの学年に五百人以上在籍している。
 朝から探しているがいっこうに見当たらない。せめて名前でも聞けてたら・・・
 でも、特徴はおぼえてる。
 長身で髪は少し伸ばしていて顔は結構キレイな感じだった、目の前で会ったら絶対にわかると思う。
  だけど・・・あの目。あの人の目はとても冷たい感じがした、態度も結構突き放した感じだった。
 でも悪い人じゃないと思う、探して会ってみればその時わかるだろう・・・

―――昼休み

  私は屋上に来ていた。あの人は見つからない・・・
 こんなとき自分の視力の無さが疎ましく思う。
 私は近眼なので、眼鏡をかけないと30センチ先の字も読めない。
「はあ・・・」
  フェンスにもたれかかれ雲を見る、もうあきらめようかとも思った。
 その時視界の隅にベンチに座っているらしい男の人の姿が見えた。
  もしかして・・・そう思い私はそろそろと近寄ってみた。
 だが、朝から何回かこういうことをしてきて全部人違いだった。
 今度こそあの人であってほしい・・・そう願い私は近づいた。

(彼だ!!)

  数メートルまで近づいてハッキリとわかった、間違いない!ようやく見つけた。
 でもどうしよう・・・彼はベンチに座って本を読んでるみたい、なんて声をかけよう・・・

「あ・・・あの・・探しました」
「・・・・・」
「き・・昨日はどうもありがとうございました」
「・・・君誰?」
「え?あの・・昨日本屋の駐輪場で不良にからまれてて・・・」
「・・・ああ、あの時の」
「それで私・・・ちゃんと名前も言わずに・・・」
「別にいいよ」
「え・・でも」
「助けたつもりなんかない」
「でも・・・あの時」
「俺は自転車を取りたかっただけだ、あいつらが邪魔だからどかしただけだ」
「だけど・・・結果的に助けてもらった訳ですし・・・」
「もういいだろ、あっち行ってくれ」
「あの・・・じゃ・・・私2−Aの『北村  由希子』といいます、あなたのお名前を教えて下さい」
「・・・名前?」
「・・・はい」
「・・・浅田、浅田涼一。2−Dだ」
「涼一さん・・・どうもありがとうございました!」
  
  私は大きく礼をすると急いで屋上から出た、どうだったろう?失礼じゃなかったかしら。
 彼の前に立ったら急にあがってしまった、変な女だと思われなかったかしら、
 そう思ったら階段の途中で足が止まってしまった。

(そうかもしれない・・・)

  彼が本を読んでいる所を急に出てきておかしいと奴だと思われたかもしれない。
 『探しました』なんて言わずもっと自然な状況で出会えば良かったんじゃ・・・
 そうだ、そうかもしれない・・・

――ドンッ!

「あ・・・ごめんなさいね」
  階段の途中で止まっていたら、上ってきた女子とぶつかってしまった。
「す・・・すいません、こちらこそ」
  私はあわてて階段の隅に寄った、彼女はそのまま階段を上って屋上へ行った。帰ろう・・・

『あ!やっぱりここにいた、浅田く〜ん』

  下りかけた足がまた止まった、屋上の扉の方からそんな声が聞こえた気がした。
 いまの人・・・彼の知り合い?どうしよう・・・見てこようかな・・・でも・・・
  心の中で葛藤したすえ、ちょっとだけ見てみることにした。

――キィ

  屋上の鉄の扉をわずかに開ける・・・彼は・・・いた、彼女も隣りに・・・
「・・・・・!」
「・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
 会話は聞こえない、でもなんか親しげだ。
「・・・彼にはああいう人がいるんだ」
  そうつぶやくと私は少しがっかりした思いで再び階段を下りた。


(変な女が来たと思ったら今度は妙な女か・・・・)

  まったく、一人になりたくてここに来ているというのに何なんだ一体?
 さっきの北村とかいう奴といいこの高宮といい・・・
「ねえねえそれ・・・なんの本?」
「・・・・・」
  俺の気持ちなど理解せず、勝手にしゃべりつづける。
「あのさあ、浅田君ってさあ・・・」
「ちょっと待った」
「え?」
「俺は今、本を読んでいる」
「うん」
「君とおしゃべりをする気は無い」
「・・・どうして、本なんていつでも読めるじゃない。あたしと会話した方が楽しいよ」
「・・・・・」
  俺は高宮をじっと睨んだ。
「ごめん・・・おじゃまだったみたいね、じゃあ今回はこの辺にしとく」
  今回は・・・だと、もう来るな。
「後でまた教室でね」
  そう言って、高宮は立ち上がり屋上から消えた。
「ふう・・・」
  俺は小説の続きを読み始めた。