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第七話『Diamond Graduation』

20070124

「優勝したね」
「そうですね」
 春分の日の昼下がり。
 目田探偵事務所で僕達は、まったりとテレビを見て過ごしていた。
 休日は殺人鬼も休みなのか、周囲では特に事件も事故も起こっていない。普通の人間ならば有り難い事だが、因果な商売をしている者にとっては退屈極まりないと言えよう。
「暇だよー、安地くーん」
 ソファの上でごろごろしながら呟く目田探偵。既に野球への興味は無くしたのか、結果が出た試合には見向きもしない。
「あーんちくーん。あーそーぼー」
「いいですけど……何をするんですか?」
「そうだね。とりあえず負けたら、ブルマでコンビニに行くって案はどうだい?」
「……どうしてブルマなんですか?」
「えっ? だってお題は『ブルマ』だろ?」
「違いますよ!」
「何だよ。折角準備していたのに」
「脱ぐな! 見せるな! と言うか、履いているのか!?」
「むー。だったら普通にテレビゲームでもしようか。鉄拳やろう。鉄拳」
「却下です。あなたとは二度とやりません」
「じゃあ、トランプでもするかい?」
「カードはしばらく見たくありません」
「それならオセロは? この間の誕生日に贈られてきた面白いやつがあるんだよ」
「あの裏も表も真っ白なやつですか? 特注だか何だか知りませんが、あんなのやったら滅茶苦茶混乱するじゃないですか」
「ぶー。わがまま言うなっ」
 目田探偵は抱いていたヌイグルミを投げ付けてくる。ちなみにこれは僕が贈った白いゴマアザラシだ。
「もっと大事に扱ってくださいよ」
「ならもっと金目の物にしてくれよ。そうだ。ダイヤ買ってくれ」
「はあ? 何言ってんですか?」
「買ってくれなきゃクビだ」
「あのですね――」
「ダイヤモンド! ダイヤモンド!」
「………」
 僕は無言でヌイグルミを投げ返す。それは見事に顔面にヒットした。
「何をする!?」
「やかましい!」
 テーブルを挟んでのクッションの応酬が開戦される。食らわない為には上手くソファの背に隠れるのがコツだ。
「食らえ! スカイラブハリケーン!」
「はっはっは! 甘いわ! ジャコビニ流星打法!」
「あのー」
「くっ……ならば人間ナイアガラだ!」
「来い! アフリカに飛ばしてやる!」
「すいませーん」
 今更になって別の人間の台詞が混じっているのに気が付いた。
「あっ」
 僕ら二人はクッションを両手に固まる。
「その、お邪魔でしたか?」
 入り口で恐る恐るこちらの様子を眺めているのは、二十代半ばと思われる女性だった。
「いいえ、とんでもない。目田探偵事務所へようこそ」
 今更ながらにポーズを付けて歓迎する目田探偵。
「安地君。早くここを片付けて、お客様にお茶を出しなさい」
「は、はい!」
 連載七回目にして、ついに事務所に依頼人が登場した。

  ***

 依頼人の名前は浅井優奈。
 市内にある旅行代理店に勤務している、ごく普通のOLらしい。
「失礼ですが、この事務所をどうやってお知りになったのですか?」
 依頼内容を尋ねる前に目田探偵はそう話を切り出した。
「私の妹の友達が、以前ここでお世話になったと聞きまして。それでここを教えてもらいました」
「その方の名前をお教え願えますか?」
「塔野和葉さんです」
 その名前を聞いて僕は「あっ」と声を出した。彼女とのメールのやり取りも少なくなり、近頃はすっかり疎遠になっているのである。
「成程。それで、今の彼女の様子はどうでしたか?」
「直接会った事はありませんが、妹の話によるとそれなりに元気にやっているようです」
 それを聞いて少しほっとする。どうやら新しい生活に馴染めているようだ。
「あの事件きりの一発キャラだったのに、意外としぶといね」
「そういう事を言うな」
 僕はぴしゃりと突っ込みを入れる。
「それでは依頼内容を伺いましょう」
 目田探偵の質問に浅井優奈は居佇まいを直して話し出した。
「実は私、来月に結婚するんです」
 確かにその左手の薬指には、小さなダイヤモンドの石が付いた指環を嵌めていた。
「……でもその前に、どうしても解決したい問題があるんです」
「問題、ですか」
 こういう話になると九割方男絡みだと相場が決まっている。恋愛関係のトラブルに対しては興味の薄い目田探偵の意欲が急激に冷えて行くのが見て取れた。
「ええ。もう、十年以上も昔の話になりますが――」

  ***

 かつて浅井優奈には、幼稚園からの幼馴染である増田勝という少年の友達が居た。
 家が近所であり、小学校に上がってからもずっと同じクラスだったので、どんな友達よりも仲良くしていた。
「うわー、なに手つないでんだよー」
「おめーら付き合ってんかー?」
 だがその関係も学年が上がるにつれて上手くいかなくなった。互いが異性として意識するようになると、周囲の目も気にするようになって疎遠になってしまったのだ。
「ねえ、マサルくん……」
「うっせー。話しかけんなよ!」
 特に増谷勝の方が拒絶を露にしていた。男友達とつるむようになってからは、今まで一緒にしてきた登下校も断るようになったのだ。
 浅井優菜はそれをとても寂しく感じていた。自分も女友達のグループに誘われるようになったので、あまり増谷勝にばかり目を向けていられない。そうすればクラスで孤立してしまうことになってしまうのだ。
 そして小学六年生となった夏休みの最終日。
 浅井優奈は女友達と一緒に神社で行われていた夏祭り会場へと遊びに出掛けた。境内は凄い人波で、最初は一緒に回っていた友達ともすぐにはぐれてしまった。
 この時代はまだ携帯電話がそれ程普及しておらず、精々PHSか、ポケベルが主流であった。小学生であった浅井優菜はそのどれも持ってはいなかったので、友達との連絡手段は皆無だった。
「マサルくん?」
「ユナ?」
 友達を捜し歩いていると、とある出店の前でばったりと増谷勝と出くわした。
「マサルくんも、お祭りに?」
「ま、まあな。あいつら、どっかに行っちまってよ」
 浅井優菜と同じような状況だったらしい。
 まともに顔を合わせて話をするもの久しぶりだった二人は、何となく気まずい雰囲気のまま出店の方に顔を向けた。
 そこは玩具を扱っていて、男女の子供を問わずに様々な商品が雑多に並べられていた。
「あっ。これ――」
 その中にあった物で浅井優奈は一つの商品に目を付けた。その当時流行っていたセーラームーンのグッズの一つで、おもちゃの指環である。
 他にも色々なグッズを集めていたが、それだけは手に入らなかったものだ。すぐに買おうと思って値段を見たが、おこずかいがわずかばかり足りなかった。
「………」
「何だよ? 期待されたってダメだぞ! そんなもの恥ずかしくて買えるか!」
 無下に断られてしまう。
 仕方無いので二人はその場を離れて、ぶらぶらと辺りを歩く事にした。
「なんか、久し振りだね」
「……まーな」
 微妙な距離を保ったまま、互いに顔も向けずに会話をする。
「おまえさあ、まだあんなオモチャ集めてんのか? いい加減卒業しろよ」
「いいじゃない、別に。マサルだって今もミニ四駆とか集めてんでしょ?」
「いいだろ、別に」
 そこで不意に、浅井優奈の表情に翳りが宿った。
「卒業って言えば……あと半年もしたら、わたし達も中学生だね」
「そーだな」
「卒業したら、離れ離れになるんだよ?」
 家は近所だったが、学区が違っていた為に別々の中学に通う事が決まっていたのだ。
「マサルは、これでいいの?」
「……何がだよ?」
「わたしは……イヤだよ」
「知らねーよ! そんなの!」
「でも! このままだと――」
「うっせー! おれ、もう行くからな! こんなとこ見られたら何言われるかわかんねーからよ!」
「マサル! 待ってよ!」
 増谷勝は、そのまま振り向きもせずにその場から駆け出して行った。
「マサル……」
 まともに顔を合わせて会話をしたのは、それが最後になった。

  ***

「――それで、その彼を捜して欲しいんですか?」
 目田探偵が面倒臭そうに尋ねる。
「いえ、違います」
 浅井優菜は首を振ると、持って来た荷物をテーブルの上にどすんと置いた。
「……金庫?」
 僕はそれを見て呟いた。いわゆる手提げ金庫というやつで、金属製の重々しい質感が漂っていた。
「これは小学校卒業間際に、わたしの家の玄関の前に置かれていたものです。直前の電話でそれが彼の仕業だと分かりました」
「電話?」
「はい。中にいいものが入っているから、わたしにあげると……」
「それで中身は?」
「分かりません。今まで開けられなかったものですから」
「触ってもよろしいですか?」
「どうぞ」
 目田探偵は手提げ金庫を手元に引き寄せる。
「ふむ……こんなもの、小学生がどこで手に入れたんでしょうかね?」
「ゴミ捨て場で拾ったとか言っていました。あの当時の男の子なら、珍しいものなら何でも持ち帰っていたみたいですし」
「それもそうですね。何にでも興味を持つ年頃ですし」
 同意しながら手提げ金庫をじっくりと観察する。
「ダイヤル式か。0から9までの数字が左右に三つずつ。全部で六桁の数字と考えると、組み合わせはざっと百万通りだね」
 一つ一つ検証していくには、とても気の遠くなる数である。
「これを開けて欲しいんです。中にどんなものがあるかが気になって」
「しかしこれは、鍵屋にでも頼むべき問題ではないのですか?」
「それも考えました。ですがその場合、バーナーやバールでないと無理だと言われたんです。そのような乱暴な方法では中に影響を与えてしまいますし、彼の意向にも沿わないと思うんです」
「と言う事は、開ける方法があるのですね。どうやらあなたは何かしらのヒントを掴んでおられるようだ」
「ええ。そうなんですが――」

  ***

「――ちょっと、これは何なの? すっごく重いんだけど」
 どうにか家の中に手提げ金庫を運び込んだ浅井優奈は、保留したままだった受話器に向かって不機嫌そうに声を掛けた。
『それ……やるよ』
 受話器の向こうの増谷勝の声は、どこか気後れしたような感じである。
「あげるって言われても――」
『中にいいもん入ってるからよ。いいから受け取れって!』
「でも、開かないよ?」
『他の人に取られちゃ困るから鍵を掛けておいたんだ。ダイヤルを合わせれば開くようになってっから』
「じゃあ、番号を教えてよ」
『んー、そうだな……』
 しばし考え込むように言葉に詰まる。
『簡単に開けられるのもなんか悔しいから、ヒントだけ出してやんよ』
「ええっ? 何それ?」
 一方的に向こうから贈ってきたくせに、何とも勝手なものだ。
『それでも開けられなかったら来週の卒業式に教えてやるよ。それまで頑張れや』
「ちょっと、そんな――」
『ヒントを言うぞ。一度しか言わないから、よーく聞け』
「………」
 仕方無く黙って言葉に耳を傾ける。
『彼は死んだよ』
 通話はそこで途切れた。

  ***

「――彼が亡くなったのはその日の夕方でした。電話をした、わずか数時間後の事です」
 浅井優菜は淡々と言葉を続けた。
「死因は?」
「崖から落ちての転落死です。そこは山林を切り開いての開発地域になっていた場所で、当時そこは男の子達が良く遊びに行っていました。危ないからって、学校では立ち入り禁止にしていたところなんですけど」
「そう言われる場所程、行きたくなりますからね。それで、事故なんですか? 事件なんですか?」
「警察では事故だという結論になりました」
 ただのノロケ話かと思っていたら、何とも怪しげな雰囲気になってきた。それに興味を引かれたのか目田探偵の瞳も輝いている。
「それで、この事も警察に話しましたか?」
「はい。ですが、事故とは無関係の事だと言われまして。わたしが小学生だった事も関係しているかも知れませんが」
「まあ、そうかもしれませんね。でなければこの金庫は証拠物件として押収されているでしょうから」
 目田探偵は手提げ金庫の中身を調べるように裏返して底の方を叩く。
「一応聞いておきますが、その電話は本当に増谷勝でしたか?」
「勿論です。少なくとも当時のわたしは、そう思っていました」
「という事は、これはその彼が贈ったものとみて間違い無いのでしょうね」
「ええ。だからそうだと、何度も申し上げているでしょう?」
「疑り深いのは探偵の習性みたいなものですからお気になさらないで下さい。ところでこの金庫を開けるのに、どのような番号を試されましたか?」
「色々です。生年月日から郵便番号に数字の語呂合わせまで。当時はポケベル文字が流行っていましたから、もしかしたらそういうものかと思っていたんですが」
 そこで僕は気になって目田探偵に尋ねた。
「ポケベル文字って何です?」
「ポケベルというものは数字しか相手に遅れなかった時代があるんだよ。普通は電話番号を送って相手に掛け直させるんだが、簡単な用件なら数字を文字に見立てて直接伝えた方が早いんだよ。『14106』で『アイシテル』とか、『3341』で『サミシイ』という風にね。当時それは女子高生から流行ったものだと言われているよ」
「へえ。と言う事は、目田さんも現役でポケベルを使っていたんですね」
「そんな訳無いだろう。私はティーンなのだから」
 まだその設定を引きずるかと突っ込みそうになったが、どうやらそれは精神年齢を差しているようだ。逆コナン。
「『彼は死んだよ』なんて言葉、数字にするには無理があります。わたしはそれがただのヒントだったのか、もっと別の意味が込められたメッセージなのか、今でも分かりません……」
 僕らに構わず言葉を続ける浅井優奈。
 死者によって過去を囚われるとは、こういう事なのかと漠然と考える。
 それは僕には無い感情だ。
「中身を見ればはっきりするでしょう。じゃあ、開けますね」
「ええ……えっ?」

 ――ガチャン。

 開いた。
「おや? こいつは――」
「何が入っているんですか!?」
 身を乗り出して中身を覗き込む浅井優奈。
 金庫の中に入っていたのは、おもちゃの指環と、一通の手紙だった。
「これは、あの時の……」
 そっと手を伸ばして指環と手紙を手に取る。

『ユナ。
 今までごめんな。
 卒業しても、おれ達は一緒だぞ!
                マサル』

「マサル……!」
 手紙を握り締めて、嗚咽を漏らす浅井優菜。
 十数年分の想いが涙となって溢れているようだった。
「目田さん。どうやって番号が分かったんですか?」
 感動しているところを邪魔しては悪いので代わりに僕が尋ねた。
「こいつは7セグメントディスプレイ業界では有名な暗号なんだ」
「……どこの業界ですか、それ?」
「時計に使われるデジタル数字の事だよ。さっきはポケベル文字について触れたけど、あれはいいところまで行っていたんだ」
「つまり?」
「デジタル数字を逆さに引っ繰り返すと英語に見えるんだ。1はI、2はZ、3はE、4はh、5はS、6はq、7はL、8はB、9はG、0はOかDってね。他にも解釈があるから、一概にこれとは言えないけどね」
「じゃあ、『彼は死んだよ』ってのは――」
「英語に直訳すると『HE DIED』で、それを数字に置き換えれば『43 0130』って事になるんだよ」
 僕はそれで納得する。
「凄いですね。目田さんはそれを一瞬で推理したんですか?」
「有名だって言っただろ? 私は元ネタを知っていたに過ぎないよ。有名なところでは『世にも奇妙な物語』でやっていたしね」
「じゃあ、今回はパクリですか?」
「インスパイヤと言いたまえ」
「それ、余計にタチが悪いです」
「いいんだよ。多かれ少なかれ誰でもやっている事なんだからさ。それに今回は別に謎解きがメインじゃないんだ。ほら、十数年越しの手紙を読んで感動しなよ。その為に回想シーンでページを割いたんだし」
「開き直るな! ミステリ否定すんな! とっくに台無しじゃボケェ!」
 小学生が作ったと言うには無理があるかも知れないが、ネタを知っていれば辞書と電卓を使って何とか作れるだろう。それにこの金庫は暗証ナンバーを変更可能のようだから。
「……あの、ありがとうございました」
 落ち着いたのか、浅井優菜が感謝の言葉を述べた。
「いえいえ、お安い御用ですよ」
「そうですよ。こんなの推理のうちに入りませんから」
「きみが言うな」
「アンタこそ偉そうに言うな」
 僕達はクッションを手に立ち上がる。
「これでどうにか、わたしも吹っ切れたような気になりました」
 依頼人の手前、僕達は渋々座り込む。
「想い出から卒業できたようですね」
「ええ……そうですね。あの言葉に深い意味が無いと知って安心しました。ただの事故だと分かった訳ですから、一度お墓参りに行きたいと思います」
「それはいいんですが、そちらの品物はどうするんですか? 重婚は犯罪ですよ」
 上手い台詞を口にしているように見えるが、今更感丸出しである。
「……しばらく実家に置いておきます。その間に彼と相談して、これからどうしようか決めようかと思います」
「それがいいでしょうね。取っておくにせよ、供養するにせよ」
 子供の頃の話で、別に恋人の忘れ形見というものでもないのだ。嫉妬深い性格でなければ許される範囲だろう。
「あっ、そうだ。依頼料は――」
「その事ですが」
 すると目田探偵は空になった手提げ金庫を手に掲げた。
「こいつで手を打ちませんか? ちょうど、うちの事務所に無かったもので」
「でも、そんな古い金庫なんかでよろしいんですか?」
「これにも思い出が詰まっていると言うのなら諦めますが」
「いえ。じゃあ、それでお願いします」
「交渉成立ですね」
 まあ、あれで依頼料を吹っ掛けたら詐欺だと言えるだろうから、これくらいが妥当かもしれない。
「何かあったら、こちらにご連絡下さい」
 目田探偵は名刺を差し出す。白紙に凹凸を付けただけの文字だから、見えづらい事この上ない。
「色々とお世話になりました。では、これで失礼します」
「あっ。塔野さんにもよろしく言っておいて下さいね」
「はい。本当にありがとうございました」
 僕がそう伝えると、浅井優奈は何度もお礼を言って帰って行った。
「さてと。安地君」
「はい」
「玄関の扉に鍵を掛けてくれ」
「えっ? 何でですか?」
「いいから早く」
 言われた通りに鍵を掛けてくる。その間に目田探偵は窓の全てのブラインドを下ろしていた。
「こんなに閉め切って、一体何をするつもりなんですか?」
「まあ見ていたまえ」
 目田探偵は工具を持って来て金庫の底をいじくり出した。
「底を叩いた時に違和感があったんだよ。ここをこうして……よしっ。開いたぞ!」
 金庫は二重底の構造になっていた。目田探偵は蓋になっていた底の部分をゆっくりと持ち上げて、奥の中身を覗き込んだ。
「どう見てもダイヤです! 本当にありがとうございました!」
 目田探偵が叫ぶのも無理は無い。
 そこにはダイヤの指環を始め、ネックレス、イヤリング、ブレスレット等の、様々な貴金属がぎっしりと詰め込まれていたのだ。
「本物だよ。これは軽く、億を越えるね」
「な、なんでですか……?」
「何かが入っているかもしれないと思っていただけで、確証は無かったよ。空っぽだったら大損だったけど、いやー想像以上だ」
「早くさっきの人を呼び戻しましょうよ!」
「どうしてだい? 取引は既に成立しているんだよ」
「しかし――」
「例えば遺産分配で土地を分けた後、更に値が上がったとしてもそれを再び分ける必要は無いんだよ」
「それとこれとは話が違います!」
「2%でどうだい?」
「今度は買収か! しかも妙に現実的な数字だし!」
 ちょっと待てよ。
 増谷勝はこれを知っていたのか?
 金庫は拾ったらしいが、こんなものが隠されていたとなると一気に事件性が増すぞ?
「大丈夫。正規の宝石屋でなくても、買い取ってくれるところは幾らでもあるよ」
「何の心配をしているんですか!? とにかく女番さんに連絡しますよ!」
「えー」
 その後色々と過去の事件が浮かび上がったり、浅井優奈の結婚に潜む陰謀があったり、増谷勝のメッセージの真の意味が暴かれたりする訳だが――。
「――そこはあえて割愛! 以上閉幕! 次回のブルマに、乞うご期待!」
「だからそれは無いっての!」

投稿者 緋色雪 : January 24, 2007 02:00 AM